勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: オランダ経済ニュース時評

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    オランダ政府は、経済安全保障上の理由から、オランダの半導体メーカーのネクスペリアを管理下に置くことを決めた。ネクスペリアは10月14日、張学政・最高経営責任者(CEO)が交代するよう、同国の裁判所に命じられたと発表した。張氏は、親会社である中国の電子機器大手、聞泰科技(ウィングテック)の創業者である。

     

    オランダ政府による、ネクスペリア管理下決定と張CEOの交代要求は、中国政府を強く刺戟した。ネクスペリアは、「フォースマジュール(不可抗力)」事由に該当すると宣言し、出荷をストップさせるという強硬手段に訴えている。これが、世界中の自動車業界へ大きな衝撃を与えることになった。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月17日付)は、「自動車業界、新たな半導体不足の可能性にパニック」と題する記事を掲載した。

     

    自動車業界は、深刻な打撃をもたらす可能性のある新たなサプライチェーン(供給網)の混乱に耐えている。この混乱は予想外のところから生じた。それは、自動車やトラックの製造方法に対して大きな影響力を持つオランダの小さな半導体メーカー、ネクスペリアだ。

     

    (1)「事情に詳しい複数の関係者によると、ネクスペリアは先週、部品の出荷を停止すると顧客に通知した。同社の半導体は照明から電子機器まであらゆるものに使用されている。出荷停止は、オランダ政府が中国企業から同社の支配権を奪取した後のことだった。関係者によれば、ネクスペリアはこの継続的な状況について「フォースマジュール(不可抗力)」事由に該当すると宣言した。これは通常、企業が異常事態に直面した際に契約上の義務が免除される条項を根拠としている」

     

    ネクスペリアは先週、部品の出荷を停止すると顧客に通知した。理由は、「不可抗力」としている。オランダ政府が、法的に支配権を手に収めたことへの抵抗である。この出荷停止をいつまで続けるのか。

     

    (2)「半導体調査会社テックインサイツのバイスプレジデント、イアン・リッチズ氏は、ネクスペリアは自動車用半導体市場全体では小さなプレーヤーだが、主にトランジスタとダイオードで構成される基本的な半導体カテゴリーでは市場リーダーだと指摘。ネクスペリアは、自動車用半導体市場全体で小さなプレーヤーだが、主にトランジスタとダイオードで構成される基本的な半導体カテゴリーでは市場リーダーと指摘されている。この分野で、約40%の市場シェアを有している。それだけに、影響は大きいのだ」

     

    ネクスペリアは、自動車用半導体市場全体で小さなプレーヤーだが、主にトランジスタとダイオードで構成される基本的な半導体カテゴリーでは市場リーダーである。それだけに、影響力は広範囲だ。

     

    (3)「また、「こうした半導体はあらゆるものに使われている。複雑な製品を作る場合、たった一つの基本部品が不足するだけで全体が止まってしまう」と語った。BMW、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツの自動車に部品が使われているネクスペリアは、電子制御ユニットを含む車両システムで使用される半導体と基本トランジスタを大量に生産している。自動車メーカーと部品メーカーは現在、自社のエクスポージャーを把握し、半導体の代替調達先を見つけるために奔走しており、ネクスペリアが出荷できなければ今後数週間で車両生産に影響が出る可能性があると述べている」

     

    ネクスペリア半導体は、BMW、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツの自動車に部品が使われている。それだけに、出荷停止の影響は大きい。

     

    (4)「関係者によると、ゼネラル・モーターズ(GM)は先ごろ、サプライヤーに対し、ネクスペリアから半導体を購入しているかどうか、どれだけ購入しているかを尋ねる調査票を送付した。フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ、ステランティスは、サプライヤーと話し合い、潜在的な影響を評価していると述べた。この状況は、世界の自動車メーカーを襲った新たなサプライチェーンの混乱だ。今年は中国のレアアース(希土類)磁石の独占、火災後のアルミニウム供給の混乱、ドナルド・トランプ米大統領の高関税導入によって生産停止が相次いだ」

     

    ネクスペリアの出荷停止は、世界の自動車メーカーを襲った新たなサプライチェーンの混乱である。

     

    (5)「自動車メーカーはここ数日、中国がレアアース鉱物の輸出規制を強化し、米国との緊張を高めたことを受け、中国のレアアース鉱物を巡って同時に存在する脅威を注視している。関係者によれば、トヨタは先週、一部のサプライヤーから中国工場が製品を出荷できないとの連絡を受けた。同社は当初、この遅延は中国のレアアース鉱物の輸出制限に関連していると考えたが、後にネクスペリアの問題と関係があることが判明したという。トヨタは、積極的に状況を評価し、代替調達先を検討していると述べた」

     

    トヨタは、代替調達先を検討しているという。ネクスペリアは、いつまでも出荷停止をしていると、主要ユーザーを失う危険性を高める。

     

    (6)「中国政府は10月初旬、ウィングテックに対し、中国からのネクスペリアの輸出を停止するよう命じた。同社の製品の80%は顧客へ納品される前に中国国内で加工されている。 関係者によると、欧州と中国にあるネクスペリアの工場からの出荷はまだ再開されていない。ネクスペリアの広報担当者は、日常業務を継続できることは「前向きな」ことだとする以前の声明に言及した」

     

    ネクスペリア製品は、中国工場で80%の加工を行なっている。中国が、稼働しなければどうにもならないのだ。

     

     

     

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    半導体装置の世界メーカーASMLは、オランダ南部アイントホーフェンで11月14日、投資家向け説明会で、同社のクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は「AIがより一層、産業を活性化させる」と強調した。中国への輸出は禁止され、メモリー半導体で世界首位のサムスンが非メモリー半導体で足踏みしているだけに、主な需要先は台湾のTSMC1強であるとみられている。

     

    見逃してはならないのは、「AIがより一層、産業を活性化させる」というくだりの発言だ。これは、日本のラピダスが、物づくりに広くAI(人工知能)半導体を組み込むことを見込んでいるのかも知れない。テンストレント開発のAI半導体試作品が、来年春に登場する。世界初の製品である。

     

    ラピダスは、ASMLから微細加工に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置を2024年末に導入する。7ナノメートル(ナノは10億分の1)以降の生産技術として不可欠である。日本国内では、ほかに米マイクロン・テクノロジーが広島県で25年以降に立ち上げる工場で導入を見込んでいる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月15日付)は、「半導体装置のASML、『買い手は1強TSMC』に成長リスク」と題する記事を掲載した。

     

    オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングは14日、2030年12月期の中期目標を据え置いた。人工知能(AI)向けの半導体の需要が拡大する一方で、同社が手掛ける最先端装置の受注は台湾積体電路製造(TSMC)の動向に左右される。AIを中心とした成長戦略には、ASMLの強気の姿勢と慎重な姿勢が交錯する。

     

    (1)「ASMLは同日、オランダ南部アイントホーフェンに置く本社で、投資家説明会を開催した。売上高は440億〜600億ユーロ(約9兆9000億円)、売上高総利益率(粗利益率)は56〜60%などと、22年に掲げた目標を据え置いた。クリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は「AIの普及に伴い、ASMLは有利な立場に立つことができる。大幅な成長を実現できる」と強調した。先端半導体の製造に欠かせない極端紫外線(EUV)露光装置が、中長期の成長をけん引するとの長期ビジョンを示した」

     

    AI半導体は、生成AIだけが需要先ではない。今後は、ロボットや機械へ組み込まれて新規需要が増える。その先兵が、ラピダスのAI半導体である。消費電力は従来の10分の1とされる。

     

    (2)「強気の姿勢は維持する一方で、慎重姿勢もうかがえる。「前回の目標を発表した22年時点よりも、AIは大きな存在になっている」(独ベレンベルク銀行のタミー・キュー氏)にもかかわらず、目標を据え置いたためだ。世界半導体市場統計(WSTS)は24年5月、24年の半導体市場規模は6112億ドル(約95兆7200億円)に拡大すると見込む。23年時点予想の5759億ドルから引き上げている」

     

    非メモリーであるAI半導体需要は、これから急速に拡大する見通しである。米調査会社ガートナーは、AI半導体の市場規模が27年に22年比2.7倍の1194億ドルに拡大すると予測する。既存技術で覇権を握ったエヌビディアと、ラピダスがテンストレントと提携した技術革新によって、エヌビディアの牙城を崩そうとする攻防が一段と激しさを増すことになりそうだ。こうなれば、ASMLの需要増は確実であろう。

    (3)「背景には、最先端の領域でTSMC1強の構図が鮮明となっていることがある。半導体の性能を左右する回路線幅が5ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の製品を製造できるのはTSMCのほかには、韓国サムスン電子と米インテルに限られる。この3社がASMLのEUV露光装置の主要な販売先となっている。ただ、インテルは受託生産事業での顧客開拓が進まず、79月期には166億ドルの最終赤字となった。サムスンは、最先端品の製造で歩留まり(良品率)の問題を抱える。台湾調査会社トレンドフォースによると、ファウンドリー市場で18年に50%だったTSMCのシェアは25年に66%にまで増える。2位のサムスン(25年に9%)と大差がつく」

     

    サムスンは、脱落したとみるべきだ。ファンドリー事業を縮小すべく人員配置も換えている。これに代わって登場するのが、ラピダスとなろう。

     

    (4)「頼みのTSMCは、ASMLの最新のEUV露光装置を買い控えている。回路線幅が1ナノ台の次世代半導体の製造に必要だとされているが、1台あたり約3億5000万ユーロ(約570億円)と高額だ。TSMCはライバル企業が足踏みするなか、足元では既存の装置を使った次世代品の開発を進めている。ASMLのロジャー・ダッセン最高財務責任者(CFO)は、「特定顧客から想定していた一定規模の需要が消える可能性が高いことがはっきりした」と取引先が投資を先送りしている状況を明かす」

     

    特定顧客の想定需要は消えても、新規ユーザーが登場すればカバーする。世界ファンドリー事業は、大きく動き出すだろう。

     

     

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