「ロレックス」や「オメガ」といえば、誰もが知っているスイス超高級時計だ。これらスイスの高級時計の対中輸出が、今年9月に激減した。対中は50%減、対香港が35%という減り方である。中国不況のすさまじさを見せつけている。
『日本経済新聞 電子版』(11月17日付)は、「スイス時計産業苦境に、中国需要減退 通貨高も追い打ち」と題する記事を掲載した。
スイスの時計産業が苦境に直面している。中国での需要の縮小にスイスフラン高が重なり、輸出が中心の時計メーカーの経営が悪化。一部では政府の支援を頼りに、従業員の一時帰休に踏み切る動きも出てきた。輸出額がここ3年、過去最高を更新し続けていた同産業だが、先行きへ影を落としている。
(1)「スイス時計協会によると2024年9月の時計の輸出額は、前年同月比12%減の約21億スイスフラン(約3700億円)。市場別で中国が50%減、香港が35%減、シンガポールが14%減となるなど、アジアへの輸出が大幅に縮小したことが響いた。価格帯別では200(約3万5200円)〜500スイスフラン(約8万8000円)の腕時計の輸出本数は2割以上減った。500(約8万8000円)〜3000(約52万8000円)スイスフランの輸出本数は4割弱、3000スイスフランを超える腕時計の輸出本数は約1割縮小した」
上記の価格は、卸価格である。実際の小売価格は、これにマージンと経費が加わる。8月をみると、時計輸出額は前年同月比6.9%増であったが、対中国は6%減であった。それが、9月の対中輸出は50%減と破滅的な減少である。中国市場の冷え込みがいかに大きいかを示している。
スイス腕時計の世界市場ウエイトは、2023年で米国19%、中国10%、日本7.7%である。日本は、インバウンドが円安で購入しているのであろう。日本人が、スイス高級時計を腕にギラギラさせてはいないのだろう。
(2)「スイスは、「ロレックス」や「オメガ」など、多くの高級時計ブランドを抱える。足元で高額消費には、強い逆風が吹く。中国を中心とする世界的な景気減速から、消費者の購買意欲が弱まっているためだ。例えば、高級ブランドの世界最大手、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの24年7〜9月期の売上高は、約4年ぶりの減収となった。こうした全体の動きがスイスの時計産業にも打撃を与えている」
売り上げの落ち込みと生産抑制は、スイスの時計業界全体に波紋を広げている。好況期に人員採用と設備投資を慌てて進めた時計部品サプライヤーは、いまや大手時計ブランドからの注文が先送りされる事態に陥っている。一部の部品メーカーは既に、社員に労働時間の短縮を要請した。スイスのような小国にとって、時計業界は合計で6万5000人余りの従業員を抱え、国内で3番目に大きい輸出セクターである。それだけに、輸出不振は極めて大きな問題になっている。
(3)「スイスの場合は需要の減退に加え、為替の問題も事態を重くしている。続いているスイスフラン高が輸出主体の時計産業の収益を圧迫。「スイス国立銀行(中央銀行)には為替市場で対応し、行動を起こす余地がある」。スイス時計協会などは9月中旬、中銀や政府に対策を要請する声明を出した。直近1年でみても腕時計の輸出本数の減少傾向が見て取れる中、事業環境の悪化へ対応を迫られる企業も出てきた。「ジラール・ペルゴ」や「ユリス・ナルダン」を持つ、ソーウインド・グループは全体の15%にあたる、従業員の一時帰休などに踏み切った」。
スイスフランは、1年間の対ドル相場で約5.5%の上昇である。スイスフランが、安全資産としての需要が高まったことや、スイス経済の安定性が評価されたことが背景にある。過去30日間では、対ドルで約2.39%も上昇している。
(4)「スイスには産業保護の一環で、需要縮小に苦しむ企業が勤務時間の短縮などを実施した際、政府が従業員の給与を補償する制度がある。近年では新型コロナウイルスの感染拡大時、多くの時計関連企業が制度を活用したことで需要の低迷期を乗り切ったが、同様の状況に陥っている」
スイス時計業界は、同国3番目の輸出セクターである。政府が、何らかの補償をするのであろう。