国策半導体企業ラピダスは、4月から最先端半導体「2ナノ」の試作に着手する段階まで順調に進んでいる。ラピダスは、納期の短縮化を目指しており、設計から生産までの一貫生産によってこれを実現する。従来は、設計と製造がそれぞれ分かれており,この間に時間の浪費が生まれた。ラピダスは、この時間的ロスをゼロにして設計段階から請負うというビジネススタイルを構築した。その設計で協業するのがクエストである。
ラピダスは3月25日、開発中の最先端2ナノメートル(ナノは10億分の1)半導体の設計や生産における協業の覚書を、半導体分野の人材派遣を手掛ける世界的なシンガポールのクエスト・グローバルと結んだと発表した。
『ブルームバーグ』(3月25日付)は、「ラピダスとシンガポール企業、半導体設計などで協業ー500人以上派遣も」と題する記事を掲載した。
(1)「小池淳義社長は会見で、クエストとの協業によって、最適設計まで1年くらいかかっていたのが3分の1や半分以下になると期待され、「設計の部分も圧倒的に時間を短縮できることが一番重要なポイント」だと述べた。ラピダスは、2027年に2ナノ半導体の量産を目指し、急ピッチで千歳工場(北海道千歳市)を整備している。試作ラインを4月に稼働させる計画については、「遅れなく順調に進んでいる」とした。半導体関連人材の獲得競争が激化する中、クエストとの協業で人材を確実に確保する狙いもありそうだ」
クエストは、シンガポールに本社を置くグローバルなエンジニアリング企業であり、非常に有力な存在である。世界18か国に拠点を持ち、77か所のグローバル・デリバリー・センターを運営し、2万人以上のスタッフを擁する。半導体設計分野は、航空宇宙、防衛、自動車、エネルギー、医療技術、鉄道、半導体、通信など、幅広い産業分野に及んでいる。
ラピダスは、最先端半導体2ナノが製造できても、最適な受注先を確保できなければ、商業生産に成功したとはいえない。それだけにクエストとの業務提携によって、クエストの得意先から半導体受注を可能にさせるという意味で、「鬼に金棒」の存在になる。「2ナノ」半導体こそ、航空宇宙、防衛、自動車、エネルギー、医療技術、鉄道、半導体、通信などと密接に連携する分野である。ラピダスは、こうして営業面で大きな支柱を得たことになる。
(2)「一緒に会見したクエストのアジット・プラブ最高経営責任者は、ラピダスへのエンジニア派遣について、「恐らく500人以上の人材を運用していくことになる」と述べた。半導体の設計支援のほか、ラピダスの千歳工場への派遣も想定する」
試験操業過程にあるラピダスにとって、クエストが設計プロセスの効率化や技術力の向上に大きく寄与することは間違いない。具体的にクエストは、500人以上のエンジニアをラピダス千歳工場へ派遣するとしている。注目すべきは、500人以上という規模の大きさである。これは、量産化と読むべきだ。試験操業、即量産化体制へ移行するのであろう。こうして、「2ナノ」生産を確実にする狙いとみる。この協力は、日本の半導体産業の競争力を高める重要な一歩になる。
ラピダスは、海外との提携関係を広げていることで、従来の日本の半導体企業の枠を超えている証拠だ。これまで言われてきた「ラピダス失敗説」の根源は、日本の半導体企業が国内に閉じ籠もって技術開発してきた歴史にある。かつての大型計算機時代には、日本独自の半導体技術が世界を制覇した。
その後、パソコンなど小型化した。これにより半導体の製品寿命は、大型計算機時代の半導体寿命と考えられないほど、短命化し多様化した。日本は、こういう世界の流れから取残された「孤島」になった。この自覚が、ラピダスを変えたのである。「ラピダス失敗説」の根幹は、こうした認識変化を持てずにいることにある。旧態依然とした「日本半導体観」が、障害をつくっているのだ。古い概念に煩わされず、技術の進展に合せた技術観を持たなければならない理由である。