勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: イスラエル経済ニュース時評

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    国際原子力機関(IAEA)は今年2月、ウランの濃縮施設を含む核施設を査察し、イランの濃縮活動について「深刻な懸念」があるとの認識を示した。濃縮度をここまで高めた国で、核兵器を製造していない例は他にないためだ。西側諸国は、このような高濃縮ウランの備蓄に民生目的の正当性はないと指摘する。

     

    トランプ米大統領は、イランの核開発は「完成数週間前の状態」と発言している。IAEAやトランプ発言からみて、イランの核完成は寸前の状況にあることは間違いなさそう。平和的に撤去するか。かつて北朝鮮も同様な状況にあって、結果的に放棄させられなかった先例がある。世界は、イランの核開発で難しい局面だ。

     

    『ブルームバーグ』(6月19日付)は、「イラン核施設の破壊、米軍支援なしでイスラエルは実現可能との見方も」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領がイスラエルと共にイランの核施設攻撃に加わる決断を下すかどうか世界が見守る中、多くの専門家はイスラエル単独ではこの任務の完遂は困難だと指摘している。

     

    (1)「イスラエル軍は、山中深くに位置するイラン中部フォルドゥの地下ウラン濃縮施設を貫通するために必要とされる大型爆弾やステルスB2爆撃機を持たない。イランの核開発を阻止するには、フォルドゥ施設の破壊が作戦の成否を握ると考えられている。だが、これに異議を唱える向きもある。あるイスラエル高官は匿名を条件に、米軍が持つバンカーバスター(地中貫通爆弾、MOP)を使わずとも「多くの選択肢が残されている」と語った」

     

    イランの核開発を阻止するには、フォルドゥ施設の破壊が作戦の成否を握ると考えられている。フォルドウの地下濃縮施設について、IAEAは6月16日、目立った損傷はほとんどないか、全くないと再確認した。フォルドウは、山中深くに建設されている、イランで最も深い場所にある濃縮施設だ。フォルドウには稼働中の遠心分離機が、約2000台設置されている。ナタンズとほぼ同数の遠心分離機を使用しているにもかかわらず、ここは最大60%まで濃縮したイラン産ウランの大半を生産している。『ロイター』(6月18日付)が報じた。

     

    (2)「外部専門家もこうした見方に賛同しており、米科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長もその一人だ。同氏は、「タブレット・マガジン」の質問に対して、イスラエルが単独で核施設を破壊できるとの見解を表明。「特殊部隊による襲撃で地雷を仕掛けることもできる。天井を破壊したり、構造体を弱体化させたりすれば、施設に入ることが極めて困難になる。数カ月の作業を要するようであれば、それは実質的な破壊だ。仮に中に入れても、大半の遠心分離機はすでに破損している可能性が高い」と述べた」

     

    フォルドゥ施設の破壊は、特殊部隊による襲撃で可能という見方がある。イスラエルは、米軍の支援を受けずとも高リスクにも関わらず、敢行作戦できるとしている。

     

    (3)「特殊部隊による襲撃については、中東研究所のケネス・ポラック氏らも注目しており、昨年9月にイスラエル軍がシリアで実施した作戦を事例に挙げる。この作戦は、アサド前政権の崩壊前に実行されたものだ。イスラエル軍は作戦実施から4カ月後に、作戦中に撮影された映像とともに詳細を明らかにした。軍報道官によれば、特殊部隊120人が数十機の航空機とともにシリア奥深くに侵入し、山中にあったイランのミサイル製造施設を破壊したとしている」

     

    イスラエルの特殊部隊による襲撃作戦は、過去にも実行されている。いざというときは、フォルドゥ施設の破壊を敢行する決意なのだろう。

     

    (4)「映像からは、イスラエル軍兵士がコンクリートで覆われたトンネル内を進む様子と、それをイスラエルの司令部内で監視する軍幹部の姿が映し出されていた。この作戦は、大胆な行動としてイスラエル国内で広く称賛され、フォルドゥ核施設へのモデルケースとしても言及されている。別の選択肢として、イスラエルがフォルドゥ周辺のイラン防空システムを排除すれば、イスラエル空軍の戦闘機F35やF15が3万ポンド(1万3600キロ)ではなく、2000~4000ポンド級の爆弾を搭載して同施設を繰り返し攻撃し、最終的に貫通させることも可能とされる」

     

    すでに、イスラエル軍はフォルドゥ核施設へのモデルケースとなる作戦を行い、経験を積んでいる。

     

    (5)「いずれの選択肢も大きなリスクが伴い、米軍機による大型爆弾による攻撃であっても例外ではない。だがイスラエルは、最大のリスクはイランの核施設が温存されることであり、かつ現政権の管理下にあることだと主張。その上で、米国の決定にかかわらず、イスラエルは目標達成まで作戦を継続すると明言している」

     

    イスラエルは、最大のリスクはイランの核施設が温存されることであり、かつ現政権の管理下にあることだと主張している。この主張によれば、イランの政変まで進ませる決意であろう。

     

     

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    イスラエルは、イランへの攻撃開始から48時間以内に、首都テヘランを含むイラン西部の制空権を手にしたと発表した。イスラエルの戦闘機は、高価な長距離ミサイルに頼ることなく、イラン上空から爆弾を投下し始めた。ロシア空軍は、3年半に及ぶウクライナ侵攻でこれをまだ成し遂げていないのだ。ロシアは、2022年2月の侵攻直後に首都キーウ制圧に失敗して以降、ロシア軍が過酷な塹壕戦から抜け出せず、甚大な損失を出し続けている理由の一つが、制空権を奪えないことにある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月16日付)は、「イランの制空権奪ったイスラエル、いまだ未達成のロシア」と題する記事を掲載した。

     

    イスラエルは15日、この優位性を生かし、イラン西部に設置された数十基の地対空ミサイルを破壊し、イラン革命防衛隊(IRGC)の情報部門トップとその副官を殺害したと発表した。

     

    (1)「二つの戦争は、多くの面で大いに違っている。例えば、イスラエルの対イラン軍事作戦には通常の地上戦の要素がないことだ。だが、世界の軍関係者が注視する両紛争でいま起きていることは、軍事戦略担当者が何十年も前から知っていることを裏付けた。それは、空を制する者が全てを制するということだ。「二つの軍事作戦は、全体的な軍事目的を成功させるために、制空権がいかに根本的に重要かを示している」。米空軍退役中将でミッチェル航空宇宙研究所の所長を務めるデービッド・デプチュラ氏はこう述べた。同氏は2001年、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンと国際テロ組織アルカイダに対する有志連合の空爆作戦を指揮した」

     

    イスラエルのイラン攻撃とロシアのウクライナ侵略では、制空権を握ることの重要性を改めて認識させた。イスラエルは成功し、ロシアは失敗した。

     

    (2)「デプチュラ氏は、「ロシアとウクライナの戦争では、どちらも制空権を握れない場合、どうなるかが如実に分かる。膠着状態と消耗戦への突入だ」と同氏は言う。「イスラエルとイランの戦争では、イランの一部の制空権を握ったことで、攻撃の自由を妨げられなくなった」と指摘。イスラエルによる最初の空爆には、第5世代ステルス戦闘機F35(イスラエルが独自の改良を加えたもの)が使用された。イランの防空網の大半が制圧された今、F15やF16といった旧型戦闘機も参戦している」

     

    イスラエルは、イランの一部制空権を握った結果、旧型戦闘機でイラン爆撃を展開可能になった。

     

    (3)「イスラエルは、さらに、ミサイルに比べて安価ではるかに数が多い統合直接攻撃弾「JDAM」や誘導爆弾「SPICE」の投下も開始し、壊滅的な被害を与えている。「わが軍は過去24時間でテヘランに至る空路を確保し、空中突破戦を実施した。IAF(イスラエル空軍)のパイロットは命の大きな危険を冒し、イスラエルから数百キロ離れた場所を飛行しながら、何百もの異なる標的を正確に攻撃している」。イスラエル軍のエヤル・ザミール参謀総長はこう述べた」

     

    イスラエルは、ミサイルに比べて安価である爆弾を投下している。イスラエルから数百キロ離れた場所を飛行しながら、イラン攻撃が可能という離れ業を行っている。

     

    (4)「イスラエルは現在、「攻撃用兵器を全て使用する能力があり、より大規模かつ効率的に、幅広く展開できる」。英空軍退役中将で現在は英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)中東事務所を率いるマーティン・サンプソン氏はこう述べた。同氏はシリアとイラクで過激派組織イスラム国(IS)に対する英空軍作戦を指揮した。「イスラエル側からすると作戦の目的は破壊と弱体化だが、イランにはその能力がない」と強調する」

     

    イランは、一部制空権を失ってイスラエルの攻撃を阻止できない事態へ陥った。強気のイランが、米国へ停戦斡旋を申し入れるほどの弱気になった最大の理由はこれだ。台湾も、この教訓を生かして、制空権を絶対に守るシステム作りが不可欠である。

     

    (5)「ロシア軍とウクライナ軍の専門家であるカーネギー国際平和財団のマイケル・コフマン上級研究員は、「イスラエルはイランの防空網に対して奇襲を仕掛け、圧倒的優位を確立した。それはウクライナの防空網に比べてあらゆる点ではるかに容易な標的だった」と指摘した。「またイスラエル空軍とロシア空軍の質的能力の非対称性は大きく、容易に見て取れる」。ウクライナと同様、イランも敵と空中戦を戦って生き残れる戦闘機を持っていない。しかし、ウクライナと異なるのは、イラン政府が敵機の自国領空での活動能力を大幅に阻害できたはずの地上配備型防空システムの組織化に著しく失敗したことだ」

     

    イスラエルは、イランの防空網に対して奇襲を仕掛け成功した。ロシアは、ウクライナへ防空網への奇襲を仕掛けて失敗した。これが、明暗を分ける結果になった。

     

    (6)「これは何よりも政治の誤算が招いた致命的な結果だった。イラン政府は数十年にわたって防空システムへの投資を後回しにし、その代わりに自国のミサイル部隊と代理勢力による抑止的な火力を重視していた。だがイランの抑止力の主要な役割を担うレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは昨年、イスラエルの攻撃で壊滅的被害を受けた。その後、シリアのアサド政権崩壊によってイランとの物理的な連携が断たれた。それに続くイスラエルのシリア防空施設への爆撃により、イスラエル軍機がイランに向かう際に妨害されることなく使用できる空の大動脈が生まれた」

     

    イランは、防空システムへの投資を行わず、ミサイル部隊と代理勢力による抑止力を重視してきた。イスラエルは、この隙を突いたのだ。各地で、「イラン革命」を起こそうというイランの野望が、自らの寿命を縮める結果を招いた。防衛とは、足下を固めることが先決であることを教訓にしている。

     

     

    テイカカズラ
       


    イランは17日、カタール、サウジアラビア、オマーンに対し、トランプ米大統領がイスラエルに即時停戦に合意するよう圧力をかけるよう要請した。

     

    イスラエルのネタニヤフ首相は16日、同国空軍基地で兵士らに対し、イランの核およびミサイル施設からの「脅威」の排除に向かっていると述べた。イスラエル空軍がイランの首都テヘラン上空の制空権を握っているとし、「テヘラン市民に『避難せよ』と呼びかけ、行動を起こす」とした。「われわれは勝利への道を歩んでいる」とも述べた。

     

    イランは、イスラエルによって制空権を奪われたことを認め、被害を最小にくいてとめるべく、米国へ仲介を要請したものとみられる。一方、ロシアが16日にイスラエルとイランの仲介役で名乗り上げた。イランは、友好国ロシアでなく米国へ停戦仲介したのは、米国の方が実効性で高いとみたのであろう。

     

    『ロイター』(6月17日付)は、「イラン、湾岸3カ国通してトランプ氏に停戦仲介要請=関係筋」と題する記事を掲載した。

     

    イランは、カタール、サウジアラビア、オマーンに対し、トランプ米大統領がイスラエルに即時停戦に合意するよう圧力をかけるよう要請した。イランは見返りとして、米国との核協議で柔軟性を示す用意があるという。

     

    (1)「イスラエルとイランが攻撃を激化させる中、湾岸諸国の首脳や外交関係者らは互いに電話会談を行い、紛争の拡大回避に努めている。湾岸諸国の関係筋によると、カタール、オマーン、サウジアラビアはいずれも米国に対し、イスラエルに停戦に同意するよう圧力をかけるとともに、核合意に向けてイランとの協議を再開するよう訴えた。湾岸諸国は紛争が制御不能に陥ることを深く懸念しているもよう。イランの情報筋の1人は、停戦が成立すればイランは核交渉で柔軟に対応する用意があると語った」

     

    イランが、これまでの強硬姿勢を捨てて米国との核協議に応じることを明確にした。トランプ氏が、イランへ手遅れにならないうちに米国との核協議に応じるよう説得していたので、イランがこれに応じる姿勢だ。これによって、イスラエルのイラン攻撃を中止するように米国へ要請した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月』(6月17日付)は、「イラン、紛争終結と核協議再開を目指す意向示唆」と題する記事を掲載した。

     

    中東と欧州の当局者によると、イランはイスラエルとの紛争終結と自国の核開発プログラムを巡る交渉再開を急ぐ意向を、アラブの仲介役を通じて発信している。

     

    (2)「これら当局者によれば、イランはイスラエル軍の猛烈な空爆を浴びる中、米国がイスラエルの攻撃に加わらない限り、交渉の場に戻る用意があるとアラブ当局者に伝えた。さらに、紛争に歯止めをかけた方がイランとイスラエル双方のためになると、イスラエルに伝言した。ただ、戦況はイスラエルに有利で、同国指導部にはイランの核施設に一段の損害を与え、政権を弱体化させるまでは攻撃をやめる理由に乏しい」

     

    イスラエルは、完全に戦局の指導権を握った以上、中途半端な解決に満足しないであろう。核開発放棄や体制変革という、イスラエルの当初目的が実現しなければ、休戦には応じまい。米国は、どのようにイスラエルを説得するか。

     

    (3)「イラン側と協議したアラブ外交筋の話では、イラン政府は、イスラエルが泥沼の消耗戦に陥る事態は避けたい意向で、ゆくゆくは外交による解決を目指すとみている。イラン当局者は、イスラエルには明確な出口戦略がなく、イラン中部フォルドゥの地下ウラン濃縮施設といった標的に大きな打撃を及ぼすには米国の支援が必要だと考えている」

     

    イスラエルが、イラン中部フォルドゥの地下ウラン濃縮施設を爆破するには、米国の協力が必要とみている。これは、イランが核開発を放棄しないシグナルだ。

     

    (4)「あるアラブ当局者は、「イランは米国がイスラエルの防衛を支援していることを認識している。米国がイスラエルを後方支援していることも確信している」としつつ、「だが、彼ら(イラン)は米国が攻撃に参加しないという保証を得たがっている」と話した。アラブの仲介役の見方では、イランが核交渉で新たに譲歩する用意があるという兆候はない。米トランプ政権が主導する外交努力は、イランがウラン濃縮をやめることを拒否し、イスラエルが攻撃に踏み切ったため中断した」

     

    イランは、米国が攻撃に参加しない保証を得たがっている。これは、イランが米国軍事施設を攻撃しないという姿勢を明らかにしたもの。要するに、イランにはもはや抵抗する力がないことを明らかにしている。解決は、早くなるとの期待を持たせる動きである。当面、原油相場高騰へ波及しないであろう。

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    イスラエルが13日、イランに先制攻撃を実施した数時間後、ネタニヤフ首相はイラン国民に直接呼び掛けるビデオメッセージを配信。「イスラエルが、戦っているのはイラン国民ではない。われわれが戦っているのはあなたたちを抑圧し貧困に追いやる殺人的なイスラム体制だ」とネタニヤフ氏が語った

     

    『ブルームバーグ』(6月16日付)は、「イラン指導部に迫る審判の時-イスラエルの攻撃激化でジレンマに直面」と題する記事を掲載した。

     

    イスラエルは過去1年8カ月にわたり、イランが中東諸国で支援してきた武装勢力の集まりである、いわゆる「抵抗の枢軸」を解体。そして今回、何十年にもわたる制裁で経済が疲弊し、指導部が資金難に陥り国内に広がる不安に対して脆弱となった敵を攻撃した。

     

    (1)「イラン政府は今、ジレンマに直面している。具体的には、米国を巻き込むほどの対抗措置を取らずに、イスラエルに対しどこまで応じることができるのか、そして、消耗戦が国内の不満を刺激しかねない状況にあって、どれだけの覚悟があるのかだ。ネタニヤフ氏は14日、米国の支援を確信して自らの優位性を強調し、ハメネイ体制の崩壊を予想する発言を行った。ネタニヤフ氏はトランプ米大統領の誕生日を祝った上で、イスラエル空軍がイランの政権に「想像もできない打撃を与えるだろう」と指摘。「イランの高官が既に荷造りを始めているという情報がある。彼らは何が起きるのかを感じ取っている」と述べた

     

    アラブの「強国」イランが、イスラエルの奇襲攻撃によって、軍幹部首脳を失うという大大失態を演じた。防御網に穴があったのだ。これは、イランの現状を象徴している。弱体化している。

     

    (2)「イスラエルが13日、正確かつ迅速な攻撃でイラン軍最高指導部を殺害したことは、同国の多くの人々に衝撃を与えている。イランのペゼシュキアン大統領の元顧問で、長年にわたり体制改革を訴えてきた経済学者、サイード・ライラズ氏は「イランの限界点が私の予想よりずっと早く訪れたように見受けられる」とし、「イランにはこれよりはるかに大きな耐性があると思っていた」と明かした。

     

    イスラエルの奇襲攻撃を防げなかったことは、イランの限界点を示している。国防は、国家の基盤であるからだ。

     

    (3)「この紛争がどのようにエスカレートするかは、一段と広範な地域戦争が勃発するかどうかや、イランの核開発の今後を左右することになる。同国は恐らく約2000発の弾道ミサイルを保有しており、それを使ってイスラエルを攻撃することも、追い詰められた場合には地域の石油インフラや米軍基地を標的とすることも可能だ。しかし、米国を戦争に巻き込むリスクや、サウジアラビアなど湾岸諸国との関係改善を損なう懸念から、イランがそうした選択肢を取る可能性は低いとみられている」

     

    イランは、米国を戦争へ巻き込むリスクの大きさを理解している。となると、今後の対応は限られる。

     

    (4)「国際金融市場や国際銀行取引、世界の石油市場へのイランのアクセスは、制裁で大きな打撃を受けている。特に重要なのは、これらの制裁で原油輸出が減少し、外貨収入を大幅に損ない、老朽化したインフラを修復する能力を著しく低下させている点だ。世界2位の天然ガス埋蔵量を有するイランだが、昨年末には記録的な需要の高まりの中で、投資不足の発電所が機能不全に陥った。同国は主要産業への停電措置を強いられ、ガスの備蓄に踏み切る事態となった」

     

    イランは、発電所が発電できないほどの疲弊状態に追い込まれている。これは、長期戦が不可能なことを示唆している。

     

    (5)「13日の攻撃に至る数カ月間、イスラエルは一連のシナリオを想定した戦争のシミュレーションを行い、攻撃がイランを完全に打撃できるかどうかを分析していた。ブルームバーグが確認した文書やこの件に詳しい欧米当局者によれば、イラン国民が政府の下に結束するリスクがあるとイスラエルは判断していた。また、ブルームバーグが確認したイスラエルや西側の情報機関の評価では、紛争が長引けばイラン経済に深刻な打撃を与え、それが政治的不安定を引き起こすと想定されていた」

     

    紛争の長期化は、イラン国内の政治的不安を引き起こすと想定されているが、これからどうなるか。これが、大きなポイントになる。

     

    (6)「情報機関は、「イスラエルとの紛争が長期化し、制裁がさらに強化されれば、イランにとって一層深刻な経済的打撃を招くリスクがある」と指摘。「これが通貨のさらなる下落を引き起こし、既に高水準にあるインフレが悪化して購買力が一層低下する可能性がある。こうした状況は中間層の不満を高め、社会的不安を助長し、新たな抗議行動につながる可能性がある」としている。それでもイランは何十年にもわたる貿易封鎖や制裁、さらに1980年代の長く血なまぐさいイラクとの戦争を経験しており、国民は混乱や経済的不安定に対する耐性を備えている」

     

    イランは経済不安に陥っても、国民を統御できる耐性を備えているという。だが、これには限界がある。

     

    (7)「イランは攻撃されたり脅されたりするたびに、強い国家主義的傾向を持つ国として一致団結してきた。このため、不満が広がっているにもかかわらず、イスラエルの爆撃によって体制転換が起こる可能性は低い。「イランは過去1年間で弱体化してはいるが、特にここ数日の動きを踏まえると、本質的に弱いわけではない」と、クウェート大学の助教で、英国の独立系シンクタンク、チャタム・ハウスのアソシエートフェロー、バデル・アルサイフ氏は語る。その上で、「イランは少なくとも現時点では必要な兵器の備蓄を持っていることを示した」とし、「イランが自らの体制が深刻な脅威にさらされていると感じたなら、もはや何が起きてもおかしくなくなり、全ての関係者にとってリスクが高まる」と警告した」

     

    イスラエルの爆撃によって、イランの体制転換が起こる可能性は低いと指摘している。これが、常識論であろう。この常識が崩れる条件は何か。ここに焦点を合わせるべきだ。第三次世界大戦にならないという点で、コンセンサスができている。ロシアが、ウクライナで手を取られているからだ。

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