米国とイランの「覚書き」では、3000億ドル規模の民間投資基金が覚書に明記されている。イランは、当初「戦闘損害補償」として4000億ドルを要求した。だが、米国の拒否によって、「民間投資基金」という形で資金調達することになった。米国は「賠償」ではなく「投資」という形でイランを取り込む道を選んだ。この「イラン復興基金」は、単なる経済支援ではなく、
米国がイランを「反米陣営から引き戻すための巨大な政治装置」として機能するであろう。中ロが、イランを失うという構図である。予想外の事態になった。
『ロイター』(6月17日付)は、「イラン投資民間基金、半分以上が拠出確約 米イラン覚書に明記=関係筋」と題する記事を掲載した。
米国とイランが、合意した戦闘終結に向けた覚書(MOU)では、対イラン投資を促すための3000億ドル規模の民間基金の構想が盛り込まれている。すでに、その半分以上が拠出の確約を得ていることが関係筋の話で分かった。
(1)「関係筋はロイターに対し、イランは当初、米国との戦闘による損害の補償として4000億ドルを米国に求めたが、米国が応じない姿勢を示したため、民間投資基金を設立する構想が浮上したと明らかにした。この基金は「復興・開発基金」と名付けられる見通しで、この枠組みの下で地域諸国がさまざまな形で資金を拠出することが想定されているという。具体的には、融資の確保や信用枠の設定のほか、直接的な資金提供などを通して、戦闘で被害を受けた施設の復旧を支援する。戦闘で被災したイランのモバラケ製鉄所のほか、製油所や空港を含むインフラ全般が対象になるという」
米国が、戦闘による損害補償をイランに払うことは米国に取って認められないのであろう。原因は、イランの核放棄ということが理由であることを守るためだ。
(2)「関係筋によると、この基金は米国とイランの最終的な合意の締結に向け、双方に経済的なインセンティブをもたらすことを目的にしたもので、政府の資金や補助金を含まない純粋な民間投資基金になる。米国のほか、湾岸アラブ諸国、アジア、南米、アフリカなどの企業が投資を確約。アジアでは日本、韓国、シンガポール、マレーシアの企業が確約したとしているが、包括的な企業リストの公表は避けた」
3000億ドルのうち、半分以上がすでに出資確約済みとされる。確約したのは、米国企業、湾岸アラブ諸国の企業、アジア(日本・韓国・シンガポール・マレーシア)、南米・アフリカの企業と多彩である。これは極めて重要で、
イラン復興は「国際コンソーシアム」方式で進むことを意味する。国際コンソーシアムになることは、イラン産業資本が、国際化されることで、従来のような「中ロ依存」という狭い範囲から抜け出すことだ。
(3)「投資が確約された分野は、エネルギー、物流、製造、輸送にわたるという。また、この基金は復興や賠償のための枠組みではなく、米国の対イラン制裁の解除のほか、国外で凍結されているイランの政府資産の解放を巡り進められている交渉とは完全に別のもので、最終的で満足のいく合意が成立するまで設立されず、運用も開始されないという。関係筋は、基金は最終合意の署名後に設立され、その後の60日間で基金の管理者がイラン側や投資家と協力し、プロジェクトを計画・策定すると説明した。また、基金の運営方法や管理主体については明らかにせず、重要な詳細はまだ詰める必要があるとした」
イラン復興は、政府資金・補助金を含まない純粋な民間投資基金で調達される。これは、米国の政治的配慮であう。 「米国がイランに金を払った」と国内で批判されないための設計である。同時に、
イラン側にも「屈辱ではない」と説明できる構造になっている。
投資対象は、イランの産業基盤そのもので、投資分野は広範囲に及んでいる。エネルギー、物流、製造、輸送、製鉄所(モバラケ製鉄所)、製油所、空港などインフラ全般である。つまり、
イランの産業基盤を丸ごと再建する規模になる。これは復興ではなく、イラン経済の再編成に近い大規模なものだ。
(4)「この投資基金の合意形成を仲介したパキスタン外務省とイラン外務省はコメント要請に応じなかった。中東地域で最大級の経済規模を持つイランは、過去40年間、米国や国際社会による相次ぐ制裁で世界の資本市場から締め出され、海外からの直接投資をほとんど呼び込めずにいた。イランは、確認されている天然ガス埋蔵量が世界2位、原油埋蔵量が世界4位。また、若く教育水準の高い9200万人超の人口を抱え、産業基盤も多様化しており、石油化学や鉱業から観光、農業まで幅広い分野で未開拓の大きな可能性を秘めている」
3000億ドルの国際基金が動けば、 イランは中国に頼る必要がなくなる。米国が、イランの「経済再建の親」になる。米国主導の基金が、イランの産業基盤を再建するからだ。これは、中国でなく米国がイランの未来を作る構造を意味する。こうして、
中国は中東戦略の「要」を失うことになる。イランは、中国にとって一帯一路の要衝であり、反米陣営の象徴でもある。中国がイランを失うことは、中東での影響力の足場を失う意味でもある。中国には、痛恨の事態となった。



