日本の軽自動車が、にわかに世界的な注目を集めることになった。欧米自動車大手ステランティスのジョン・エルカン会長は12日、欧州も日本の「軽自動車」のような小型で安価な車両を開発する必要があるとの見解を示した。中国のBYDは、来年下半期に日本で250万円台の軽EVを発売すると明らかにしている。
BYDは、軽自動車の発祥地の日本で先行発売し将来、韓国・インド・欧州などへ市場を拡大させるとの予想も出ている。ステランティスは、こういうBYDの動きにも刺激されているのであろう。「日本発」軽自動車が、国際基準になりそうだ。
『ロイター』(6月16日付)は、「ステランティス会長、欧州に日本式『軽自動車』の導入呼びかけ」と題する記事を掲載した
欧米自動車大手ステランティスのジョン・エルカン会長は12日、欧州は日本の「軽自動車」のような小型で安価な車両を開発する必要があるとの見解を示した。欧州地域で規制による高価格が消費者需要を圧迫していることを理由に挙げた。米自動車専門メディアのオートモーティブ・ニュースがイタリアのトリノで開催した会議での発言。
(1)「軽自動車は日本で従来販売されている都市型車両で、サイズとエンジンに制限があり、税金や保険費用が低く抑えられる。エルカン氏は日本の軽自動車に相当する欧州の車両を「eカー」と名付けることができるとし、「日本に市場シェア40%を持つ軽自動車があるなら、欧州がeカーを持たない理由はない」と発言した。エルカン氏と仏同業ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は先月、欧州連合(EU)に対し、車体のサイズに応じて異なる規制を導入することで、小型車に対する規制負担を軽減するよう求めた」
日本の軽自動車が、そのコンパクトさゆえに脚光を浴びている。「軽トラ」は、米国が早くから注目しており、中古が絶大な人気を集めてきた。欧州では、「eカー」と名付けられるという。
(2)「エルカン氏によると、2019年に欧州において1万5000ユーロ(1万7400ドル=約250万円)未満で販売されていた車両は49モデルあったが、現在は1モデルにとどまっている。また、当時その価格帯未満で100万台が販売されていたのに対し、現在その数は10万台に満たないという。傘下のフィアットは、戦前の「トッポリーノ」から、1950─60年代のよく知られた「600(セイチェント)」や「500(チンクエチェント)」など、手頃な価格の小型車を生産する伝統を持っている。これらがイタリア国民の自動車購入を促したことで同社は欧州の巨大企業になった」
イタリアでは、手頃な価格の小型車が人気を得てきた歴史があるという。eカーは、そういう流れに乗るもの。
(3)「エルカン氏は、次期CEOのアントニオ・フィローザ氏について、自動車産業がグローバルから「多地域」へと移行する中で適任だと述べた。フィローザ氏はアルゼンチンやブラジルなど南米や北米市場などを統括した経験を持ち、それは規制や関税、政治勢力への建設的な対応など世界の動向と合致していると強調した」
自動車産業は、グローバルという世界共通モデルから脱して、地域に根ざした特殊モデルが発展できる時代を迎えるという。こういう視点で、軽自動車が見直される時代になったのだ。
中国EVメーカーのBYD(比亜迪)が、来年下半期に日本で250万円台の軽EVを発売する方針だ。BYDは、中国でドロ沼の値引き競争を牽引している。日本市場でも同様な戦術を展開したものの、日本の消費者はこの戦術に「ノー」突きつけた。そこで、窮余の策として「軽」へ着目。軽なら低価格でも問題ないという戦略かもしれない。
だが、日本の軽自動車市場は輸入車にとって進入障壁が高いことで有名とされる。長さ3.4メートル、幅1.48メートル、排気量660㏄以下、最大出力64馬力以下など厳格な基準を充足しなければならないためだ。この市場は、24年に180億ドル(約2兆6000億円)規模で、日本車市場の40%を占めている。海外からは、「日本人は金持ちなのに、なぜ」という疑問を持たれている。だが、コスパの良さが最高なのだ。