a0960_008571_m
   


米国のグリーンランド買収事案が、話題を呼んでいる。冷静に考えると、グリーンランドは、米国領土へ編入さたほうが、世界の地政学的判断においてプラスになるだろう。ただ、国民感情論が絡んで問題が複雑化している。

 

地政学的に見れば、グリーンランドが米国の勢力圏に完全に組み込まれることは、米国・NATO・世界秩序にとって「戦略的プラス」と評価される。これが、中ロの「枢軸」勢力を押しとどめられるからだ。米国の戦略家は、グリーンランドを「北極の航空・ミサイル防衛の要」と位置づけているという。この枢要な地域が、中ロの手に渡ることになれば西側諸国に安全保障に重大な障害となろう。米国の軍事力は、西側諸国の「公共財」的な性格を持っている。欧州は、こういう地政学的な視点と国民感情の接点をどうするか。そういう建設的な思考が必要であろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(1月18日付)は、「グリーンランド巡り欧州苦悶、米と対決か妥協か 貿易で報復論も浮上」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドを取得するまで欧州8カ国からの輸入品に追加関税をかける方針を表明したことを受け、欧州諸国は一斉に反発した。対抗措置も検討する。米国との関係悪化はウクライナ支援などに響きかねず、難しい判断を迫られる

 

(1)「欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、17日の声明で「関税は欧米の関係を損ない、危険な悪循環を作り出すリスクがある。欧州は団結・協調し、主権の維持に取り組む」と強調した。スウェーデンのクリステション首相は、同日の声明で「私たちは脅迫されるわけにはいかない。同盟国のために立ち上がる」と主張。EUに加えて非加盟国の英国、ノルウェーとも共同の対応を協議していると明かした」

 

トランプ氏が、グリーンランドを取得するまで欧州8カ国に関税を掛ける、と言いだしたことがEUへの感情的ヒートアップさせた大きな要因である。ただ、トランプ氏は「喧嘩を売って」仲良くなるという流儀だから、関税引上げは「挨拶代わり」とも言える。

 

(2)「EU加盟国は18日、大使級の緊急会合を開き、対応策を話し合う。19日には北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長がブリュッセルでデンマーク国防相、グリーンランド外相と会合を開く。米国は、中国とロシアを抑止する安全保障とレアアース(希土類)を含む鉱物資源の確保を狙い、グリーンランド取得にこだわる。今回は米国の方針に賛同しない第三国にも圧力の対象を広げ、米国に同調するよう促した格好で一段ギアを上げた。就任後から「ディール(取引)」の武器に使ってきた関税を再び持ち出し、世界最大の米国市場を武器に経済面で揺さぶる」

 

NATOは、トランプ式流儀を熟知しているはず。売られた喧嘩をすぐに買うのでなく、トランプ氏の真意を聞くのも必要だ。「長屋の旦那」的な面も多いだけに、落とし所を探すことだ。

 

(3)「欧州側は、トランプ氏の強硬路線に困惑を隠さない。欧州の有志国が今回、グリーンランドに派兵したのは「北極圏の警戒・監視強化」という名目だ。そもそもグリーンランドにはすでに米軍基地がある。トランプ氏の理屈に沿い、中ロの脅威に備えるためにグリーンランドに兵を送ったことを理由に、NATOの同盟国から関税をかけられる。欧州各国はトランプ氏がグリーンランドを欲するのは安保目的ではないのではないかと疑う」

 

話合いもせずに、相手の腹の内を探っていても時間の無駄である。膝つき合わせて話せば妥協点もあるはずだ。

 

(4)「米国の次の一手として取り沙汰されるのが軍事力の活用だ。武力による併合も辞さないと脅すものの、交渉カードとして欧州側にとっての急所はNATOになる。トランプ氏の1期目にはNATO離脱論も浮上した。米議会は、2024会計年度(23年10月〜24年9月)の国防権限法で、大統領がNATO離脱を決める前に議会と協議するよう義務付けた。ただ、米軍の最高司令官の大統領が「事実上の離脱」を模索し、ロシアという脅威にさらされる欧州から譲歩を引き出そうとするのはあり得る」

 

EUやNATOは、米国がグリーンランドを買収したら、中ロの拡張主義をどこまで押しとどめられるか、地政学的な分析と話合いが必要だ。感情論でぶつかり合っても、中ロを喜ばせるだけだろう。

 

(5)「第1次政権当時の高官らの間では、離脱論が再浮上する可能性がささやかれてきた。トランプ氏は14日、自身のSNSに「米国の膨大な軍事力なしでNATOは効果的な戦力や抑止力は持ちえない」と警告した。米国のNATO離脱は、欧州にとって最も避けたいシナリオだ。将来のロシアからの侵攻に備えたNATOの欧州防衛態勢は、米軍に大きく依存する。NATO欧州連合軍最高司令官も伝統的に米国人が就く。ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援も、米国に頼る状況が続く。米国がウクライナ支援から手を引けば、欧州におけるロシアの脅威はさらに増す」

 

NATOが、ロシアという潜在的な強敵に対抗するには、米軍の後押しがなければ不可能だ。感情論だけで押し通せないところに悩みがある。となれば、解決案は自ずと出てくるはずだ。

 

(6)「それでも欧州側は、グリーンランドを巡り、米国に妥協するのは難しい。米国への売却や譲渡を決められるのはデンマークやグリーンランドであり、双方とも「売り物ではない」と明確に否定する。EUやNATOなどの枠組みで調整できるものではない。デンマークのフレデリクセン首相は、米国がNATOの同盟国から領土を強引に奪い取る事態になれば、事実上のNATO崩壊になると警告する。欧州では米国に反発する世論も高まりつつある。グリーンランドとデンマークでは17日、米政権に対する抗議デモが開かれた。欧州の首脳も米国に対し弱腰の姿勢ばかりを見せられない」

 

ここは、デンマークとグリーンランドの大局観を待つほかない。世界の民主主義を守るにはどうするか。そういう視点の議論が必要であろう。