ASEAN(東南アジア諸国連合)経済は、急速に停滞感を強めている。米国の高関税で対米輸出に陰りが出る一方、中国からは安値の工業製品が洪水のごとく流入し、ASEANの産業基盤へ打撃を与えている。
こういう手詰まり感の中で、日本が2023年に始めた「重要資源25ヶ国」事業に、インドネシア・ベトナム・マレーシア・フィリピン・タイの5ヶ国が入っているのだ。これら諸国は、この2月に米国が音頭を取る「重要鉱物特恵市場」(8月稼働)へ参加した。日本の化学的精錬法によって自前の精錬から製品までの道が開けた。さらに、関連産業においては米国内で事業展開できるメリットも約束されているので今後、大きく展望が開けてきた。
『日本経済新聞』(2月27日付)は、「ASEANは自らを改革せよ」と題する投稿を掲載した。筆者は、IDEASマレーシアエコノミストのドリス・リュー氏である。
東南アジアは重要な岐路に立っている。同地域の経済は低・中コストの輸出志向型製造業を基盤に世界的な需要を支えながら成長してきた。しかしそのエンジンは今、失速しつつある。保護主義の高まり、繰り返される貿易戦争、分断化する地政学的秩序が、東南アジア諸国連合(ASEAN)の構造的な脆弱性を露呈させている。
(1)「ASEANの二大市場である米国と中国が輸出の見通しを鈍らせている。米国は高関税により障壁が高まり、中国の産業過剰生産能力が安価な製品を地域市場にあふれさせ、現地産業を脅かしている。ASEANは変化する国際情勢に適応するため、産業政策の再考と経済基盤の再構築が急務だ」
ASEAN経済は、25年に入って状況が急変している。米国の高関税による対米輸出減と中国からのダンピングよる輸出攻勢である。このままでは、「中所得国の罠」は確実で、戦前の評価であった「停滞するアジア」へ逆戻りしかねない状況である。
(2)「第一に、ASEANはすべての産業において低付加価値生産から高付加価値生産へ移行しなければならない。製造業の多くは低、中程度の付加価値の組み立て作業に集中している。半導体産業は集積回路設計、高度なパッケージング、研究開発といった上流工程へ移行しなければ、収益が減少する構造に閉じ込められてしまう」
ASEANは、レアアースなど重要鉱物の産出国である。これまでは、中国へ鉱石を売ってきたが、日本の化学的精錬法提供で「売鉱」から一転して、自前での精錬が可能になった。上記5ヶ国が、製品までの一貫生産体制を築けることは朗報である。レアアース生産国になれば、半導体などの産業高度化も夢ではなくなるだけに、日本への期待感が強まっている。日本は、レアアース供給国が増えるというメリットを受けられる。
85年前、日本は「南方資源」占領目的で太平洋戦争を始める愚を犯した。現在は、科学力(化学的精錬法)によって、ウイン・ウインの関係で双方が利益を得られる時代になった。改めて、科学の力が平和を切り開くことへの認識を深まるであろう。
(3)「農業はより高い所得と長期的な食料安全保障を確保するために、バイオテクノロジー、農業技術、スマート農業への転換が不可欠だ。ハイテク農業は小規模農家を高所得層へと変革させる。サービス業は観光、小売、ホスピタリティといった低生産性活動に依存している。次の成長をけん引するためには、知識集約型のサービスへ軸足を移す必要がある。労働者を高度な役割へ再訓練し、地域的なデジタル統合と越境サービスの深化も図らねばならない」
工業化は一点突破で道が開ければ、それに付随して産業高度化が進むものである。バイオテクノロジー、農業技術、スマート農業への転換が可能になろう。
(4)「第二に、ASEANは技術導入を加速させる必要がある。中小企業や国有企業も自動化、デジタルツール、人工知能(AI)アプリケーションを導入し効率性を高めなければならない。企業がサプライチェーン、金融取引、物流を同時にデジタル化すると、生産性は相乗効果で飛躍的に向上する。第三に、ASEANの長期的な競争力は人的資本への投資と地域イノベーション・エコシステムの構築にかかっている。大規模なスキル向上・再教育プログラム、デジタル・グリーン経済のニーズに沿ったカリキュラム改革、国境を越えた研究開発協力が必要だ」
このパラグラフは、ASEANの向かうべき理想図が説かれている。これらが現実化する道は、日本の提供する化学的精錬法によって切り拓かれるであろう。

