米国とイランの停戦合意が成立したが、イラン側が例によって勝利宣言を発している。これに「乗せられた形」の報道が表れた。日本メディアもその一つである。今回の合意は、国連安保理承認が前提になっている。安保理承認は、国際法同等の威力を持つのだ。中ロといえど、自らの権益基盤を損ねると理由で反対は不可能である。こういう「建前」を理解すると、イランが有利などと言う見方は困難であろう。
『毎日新聞 電子版』(6月19日付)は、「覚書はイランの『勝利』に 核問題は先送り、海峡には『管理権』」と題する記事を掲載した。
米国とイランの戦闘は17日、「戦闘終結」が盛り込まれた14項目の覚書が発効し、新たな局面に入った。米国とイランの両大統領が署名した覚書は、イラン側の要求の多くが反映された。懸案だった核問題も先送りされ、指導部は「勝利」を宣言した。
(1)「イラン外務省のバガイ報道官は17日、「現段階では核問題について交渉を行わないことが決定された。焦点は戦争の終結にあり、我々はそれを成し遂げた」。自国が核開発を巡る交渉の先送りという「賢明な判断」を下したとたたえた。覚書では、イランが核兵器の開発をしないことが明記されたが、イランはもともと核兵器の開発を否定しており、従来の立場からの変更はない。高濃縮ウランの希釈も、過去に提案したことのある譲歩案だ。国内での希釈であれば、イランが「国家の誇り」と位置づけるウラン濃縮の技術や権利は維持されるため、合意を結ぶハードルはそれほど高くないとみられる」
「イランの勝利」と強調しているが、実際には、核問題は先送り(=本丸は未解決)、ウラン濃縮の権利は維持(=イランの“誇り”を守っただけ)、高濃縮ウランの希釈は国内で可能(=実質的譲歩は小さい)である。イランは、「勝利」を宣言したいだけで、実質的には「時間を買った」に過ぎない。これは、国内の強硬派・宗教指導部・IRGC(革命防衛隊)向けの政治演出である。
(2)「原油輸送の要衝であるホルムズ海峡についても、イランによる「管理権」が事実上認められた形となった。バガイ氏は「イランとオマーンでホルムズ海峡の管理の仕組みを構築する」と改めて表明し、海峡が自国の管理下にあると強調した。イランはこれまで、ホルムズ海峡を対岸のオマーンと共同で管理し、船舶の安全を確保する対価として「サービス料」を徴収する構想を描いてきた。覚書では、船舶が無料で通航できる期間が「60日間」と記されており、イラン側がその後に何らかの手数料を徴収できる可能性が残る。国際法上、国際海峡であるホルムズ海峡では沿岸国による通航料の徴収は認められないとの解釈が一般的だが、水先案内など特定のサービスの対価を請求することは可能とみられる。イラン側はこうしたロジックを根拠に正当性を主張するとみられ、交渉団を率いたガリバフ国会議長も「当然サービス料を徴収することになる」と述べている」
イランは、ホルムズ海峡の「管理権」を得たように書かれているが、 国際法上は沿岸国が通航料を徴収することはできない。イランができるのは、水先案内料、安全確保サービス料といった「名目上の手数料」である。通行料は、国際法違反であり国連安保理承認に違反する。「管理権」=象徴的勝利であり、実質的支配ではない。
(3)「覚書には、イランがこだわってきたレバノンを含むすべての戦線で恒久的に戦闘を終結することも盛り込まれた。レバノンでは3月以降、イスラエルとイランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘が続いている。イランメディアによると、「レバノンの領土保全と主権の尊重」という文言は、トランプ米大統領が難色を示していたが、イラン側の要求で合意直前に追加されたという。ヒズボラの指導者カセム師は17日のテレビ演説で、イランの「偉大な勝利を祝福する」と歓迎した」
レバノン戦線の「恒久停戦」も、イランの勝利ではない。実際には、イランはレバノン戦線を維持する余力がない。経済制裁と戦闘で疲弊しており、国内の不満が高まっている。体制維持のためには、戦線縮小が必要である。イランが、勝利したのでなく、戦線を縮小せざるを得なかったに過ぎない。
(4)「覚書の署名を受け、今後の焦点は核問題などを巡る細部の交渉に移る。覚書には、イランの凍結資産の解除や復興資金の調達なども盛り込まれており、イランとしては、合意内容の着実な履行が最優先だ。ただ、核施設やウラン濃縮の扱いなどを巡る交渉が紛糾すれば、こうした措置が停滞する可能性もある。イラン側が交渉材料としてホルムズ海峡の通航制限を持ち出すことも考えられ、協議の行方次第では、再び緊張が高まる恐れも残る」
イランは、国内向けに「勝利」を演出。体制の延命が最優先となった。核問題は先送りして時間稼ぎをしている。ホルムズ海峡を「カード化」して交渉材料にしようとしている。
米国は、とりあえず戦闘を止めたい。核問題は後で本格交渉する。ホルムズ海峡の「管理権」は象徴的譲歩にすぎない。本丸は「核査察」と「凍結資産の管理」にある。双方が“勝ったふり”をしているが、 実質は「次の交渉戦のための停戦」だ。安保理承認という大枠が、はめられていることを忘れてはならない。イランは、逃げ隠れできない国際法というタガが嵌められるのだ。
米国とイランの停戦合意が成立したが、イラン側が例によって勝利宣言を発している。これに「乗せられた形」の報道が表れた。日本メディアもその一つである。今回の合意は、国連安保理承認が前提になっている。安保理承認は、国際法同等の威力を持つのだ。中ロといえど、自らの権益基盤を損ねると理由で反対は不可能である。こういう「建前」を理解すると、イランが有利などと言う見方は困難であろう。




