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政府は、夏までに南米5カ国と経済連携協定(EPA)の交渉入りをめざす。3億人近くの人口を抱える地域に自由貿易圏を広げ、日本の経済成長を底上げする。原油や重要鉱物の調達先を増やし、中東や中国への依存度を下げる。

 

(1)「関税同盟メルコスル(南米南部共同市場)とのEPAを探る。メルコスルは、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビアの5カ国で構成する。ベネズエラは人権侵害を理由に2016年から参加資格が停止している。政府は5月末にもメルコスルとの対話「戦略的パートナーシップ枠組み」を開く。5月中旬にメルコスルの最大経済国であるブラジルのビエイラ外相の来日を調整する。2つの対話を通じて交渉入りに向けた道筋をつける段取りを描く。高市早苗首相は4月28日、首相官邸で外務省幹部らからメルコスルに関する説明を受けた。EPAの協議に入れば高市政権として初めての大型の自由貿易交渉になる」

 

日本が、長年の懸案であった関税同盟メルコスル(南米南部共同市場)とのEPAを模索する。メルコスルは、牛肉と原油・鉱産物が輸出品である。昨今の原油・鉱産物ブームに乗って、農林族の牛肉輸入反対論が後退しつつあることも後押ししている。

 

(2)「国内総生産(GDP)は、計3兆1600億ドル(490兆円)にのぼる。東南アジア諸国連合(ASEAN)の4分の3の規模に相当する。日本との貿易総額は25年におよそ2兆4000億円だった。米国やASEANとの貿易の1割に満たず、伸び代が大きい。日本は南米からのエネルギー調達に関心を向ける。米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに中東依存の危うさが浮き彫りになったからだ。中東情勢が緊迫する前は9割を超える原油を中東から輸入した」

 

日本は、南米5カ国との貿易総額が米国やASEANとの貿易の1割程度である。それだけ、今後の伸びが期待される。

 

(3)「ブラジルは、世界9位の主要産油国だ。増産へ海洋油田の開発を続ける。3月の原油生産量は日量430万バレルと過去最高を更新した。資格停止中のベネズエラは原油の確認埋蔵量が世界で最も多い。1月にマドゥロ大統領が米国に拘束され、メルコスル復帰の機運が高まる。重要鉱物も豊富だ。アルゼンチンは電気自動車(EV)のバッテリーに欠かせないリチウムを生産する。ブラジルはレアアース(希土類)の埋蔵量で世界2位につける。中国への依存度の引き下げは日本の経済安全保障で重要課題になっている」

 

ブラジルは、世界9位の主要産油国だ。資格停止中のベネズエラは、原油の確認埋蔵量が世界で最も多い国だ。ベネズエラがいずれ資格回復すれば、日本にとって有望な原油輸入先になろう。

 

(4)「日本の経済界は、メルコスルとの早期のEPA締結を要望してきた。自動車や機械などの工業製品にかかる関税の引き下げを求める。外国企業との競争で不利になりかねないとの危機感が背景にある。欧州連合(EU)とメルコスルが結んだ自由貿易協定(FTA)は1日、暫定発効した。例えば、内燃エンジンの完成車をメルコスル各国に輸出する場合、日本は関税で不利になる」

 

EUが、メルコスルとFTAを結んだ。日本も遅れてはならない。ただ、FTAと日本が目指すEPAでは、内容が異なる。EPAの方が、広範囲である。

FTA(自由貿易協定) は、モノの関税を下げる・撤廃することが中心である。

EPA(経済連携協定) は、 関税に加えて、投資・サービス・知財・人の移動・制度調和まで含む「包括的な経済秩序」である。EPAの方が、守備範囲がぐっと広がる。

 

(5)「EPA交渉は、日本によるブラジル産牛肉の輸入が最大のハードルになる。自民党の森山裕前幹事長ら農林族議員は4月下旬、関係省庁の幹部らとメルコスルとの交渉に関して議論した。「牛肉の輸入をしっかり制限すべきだ」といった意見が出た。米農務省の統計によると、ブラジルの牛肉生産量は25年に1261万トンにのぼった。世界トップだった米国を抜いた。日本の生産量は24年度に35万トンと差が大きい。ブラジル産が大量に入れば価格が下がって日本の畜産農家に痛手となりかねない」

 

ブラジル産牛肉の輸入が、日本とのEPAの壁になっていた。最近は、必ずしも日本の牛肉と競合しないとの見方も出ているという。

 

(6)「農林族にも、EPA交渉に前向きな意見が出る。農林族のひとりは、「エネルギーや重要鉱物の調達を考えれば真っ向から反対するのは難しい」と語る。政権幹部は党の立場に配慮しつつ「最後は国の外交として判断する」として交渉を進める姿勢を示す。日本はこれまで口蹄疫(こうていえき)などの家畜病への懸念を理由にブラジル産牛肉の輸入を一律に制限してきた。南米産の牛肉は赤身が主力だ。サシ(白い脂身)を特長とする和牛と競合しにくいとの見方がある」

 

農林族も視野が広がって、原油や重要鉱物資源の輸入の邪魔になってはならないという「常識」を持つようになってきた。

 

(7)「メルコスルとのEPAは構想が出てから長年、実現していない。農業分野がネックになってきた。南米側にとっても利点がある。新たな原油や農産品の輸出先を開拓できれば、主要な貿易相手国である中国に依存するリスクを減らせる」

 

日本と南米がEPAへ繋がれば、日本経済にとってウイングが広がる。良いことだ。