インドネシア政府が、対外政策を静かに切替え始めた。前政権時代は、日本の新幹線導入計画を土壇場で切替え、中国案の高速鉄道計画を採用した。これが完全な裏目に出て現在、インドネシアは超長期の財政負担を背負い込む事態へ追い込まれた。こういう背景から、インドネシアの「脱中国」が始まっている。
その証拠が12日、在インドネシア中国商工会議所によって、インドネシア政府の政策運営に対し懸念を表明する書簡を公表した。プラボウォ大統領に宛てた書簡となっており、政策が「安定性と継続性を欠く」と指摘し、中国企業が事業で困難に直面していると訴えた。この裏には、インドネシア政府の「資源ナショナリズム」の高揚がある。これを、日本の化学的精錬法が支えているのだ。
『日本経済新聞 電子版』(5月12日付)は、「中国企業団体、インドネシア政府に異例の抗議 『政策の継続性欠く』」と題する記事を掲載した。
中国の企業団体がインドネシア政府に対し、表立って抗議を表明するのは異例だ。中国はインドネシアにとって最大の経済パートナーで、貿易額では全体の3割強を占める。
(1)「書簡では、資源分野での政府の頻繁なルール改正に対する抗議が目立った。中国はニッケルを中心に鉱山や製錬所に積極的に投資してきた。インドネシア政府は国際価格を引き上げるため、ニッケル鉱山に対して2026年の採掘量を大幅に減らす指示を出している。これに対し「大規模鉱山では70%以上もの削減が行われている」とし、電気自動車(EV)電池の材料をつくる製錬所を含む「川下産業の発展が阻害されている」と指摘した」
通常、中国が海外での投資先に対して不満を示す場合、圧力をかける、裏で交渉する、政府間で調整するなどメディアに出ない形で不満を伝えるケースが多い。今回は、在インドネシア中国商工会議所が公文書で抗議を公表した。
中国の外交スタイルから見て、極めて異例である。なぜか? 中国側が「弱い立場」に追い込まれていることを示している。
インドネシアの政策変更は、「中国企業の生命線」を直撃している。中国のEV・電池サプライチェーンの中核を直撃するからだ。特にニッケルは、中国のEV戦略の心臓部である。
インドネシアは、世界最大のニッケル供給国だ。インドネシアが、政策を変えると中国のEV産業が止まりかねないという事態が起こる。だから、中国は異例の抗議をせざるを得なかったのであろう。
なぜ、インドネシアは中国に強く出られるのか。
1)インドネシアは「資源大国」であり、主導権がある。ニッケル・ボーキサイト・石炭・パーム油など、
世界市場を左右する資源を持っている。中国は依存する側である。
2)プラボウォ政権は、「資源ナショナリズム」を強めている。政策の混乱はあるが、
方向性は明確に打ち出されている。資源は、インドネシアの利益のために使うというものだ。これは、中国の「資源囲い込みモデル」と真っ向から衝突する。
3)中国の投資はインドネシアへ過剰依存であり、逃げられない立場だ。中国は、インドネシアでニッケル製錬所・鉱山・EV工場に巨額投資をしてしまった。
撤退すれば損失が巨大となる。つまり、インドネシアは強気の立場であり、中国が弱い立場である。 中国が、抗議するという逆転現象が起きたものだ。
(2)「インドネシアでは外貨の流出を防ぐため、25年から企業が資源輸出で得た外貨収益を国内の銀行に1年以上預金することを義務付ける政策が導入された。26年からは預金先を国営銀行に限定したり、ルピアへの両替を制限したりと、運用が厳格になる。これに対しても「企業の流動性と長期的な事業運営に深刻な悪影響を及ぼしている」とした」
これは、インドネシアが「資源ナショナリズム」へ回帰している証拠であろう。国内で挙げた利益は、国内に止まって還流して欲しいというサインである。
(3)「書簡では、「近年、インドネシアで事業を展開する企業は、過度に厳格な規制、過剰な取り締まり、当局による汚職といった問題に直面している」とも指摘した。インドネシア政府に対して「安定した公正かつ透明で予測可能なビジネス環境の育成を継続し、外資系企業の正当な権利と利益を保護してほしい」などと要望した。中国の企業団体が抱える懸念は外資企業の間で共通している部分も多い」
インドネシアは、「日本からのTPP加盟推薦」を受けた。これは極めて重要なシグナルである。TPPは、高水準ルール、透明性、環境・労働基準、国有企業規律、投資保護で高い規範を示している。これらは、
中国モデル(密約・不透明・国有企業中心)と真逆である。インドネシアが、TPPへ近づくということは、中国モデルから距離を置き、日本・米・豪の制度圏に入る意思表示だ。
いわば、見捨てられる形になった中国が、「インドネシアで事業を展開する企業は、過度に厳格な規制、過剰な取り締まり、当局による汚職といった問題に直面している」と逆襲している。中国政府が国内で行っていることと比較して、今回の抗議は違和感を覚える。
(4)「プラボウォ政権では政策の混乱が目立っており、日本企業の事業にも悪影響が及ぶケースが目立つ。25年8月には成長停滞の不満を背景に大規模な反政府デモも広がった。2〜3月にはムーディーズ・レーティングスやフィッチ・レーティングスが信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。財政悪化に対する懸念に加えて「政権の政策の予見可能性が低下している」ことが理由だった」
プラボウォ政権の政策混乱は、日本企業にも影響している。だが、
構造的には日本に追い風となろう。理由は、日本が資源を「奪わない国」であることだ。技術・品質・長期契約が強みで、政治的中立で信頼される。中国のように“囲い込み”をしない。インドネシアは今後、 中国依存を減らし、日本・韓国・欧米とのバランスを取る方向に動くとみられる。

