シリアは9日、同国内にある2つのロシア軍基地の管理を引き継ぐことで合意したと明らかにした。ロシア軍のシリア駐留は事実上終了する。シリア国営通信SANAによると、「ロシア軍の(シリア国内における)プレゼンスを再編」することで、地中海沿岸のヘメイミーム空軍基地とタルトス海軍基地の輸送施設の管理がシリア文民当局に移るという。
ロシア軍のシリア撤退は、経済衰退が構造的段階に入った証拠である。ロシアにとって、ヘメイミーム空軍基地とタルトス海軍基地は、地中海での唯一の軍事拠点であり、「ロシアが大国である証明」そのものであった。それを手放すのは、国力の衰退が軍事地政学にまで波及したことを意味する。なぜ基地を維持できなくなったのか。ウクライナ戦争で兵力・資金・装備が枯渇したことだ。ロシアは、ウクライナ戦争で兵力、弾薬、航空機を大量に失い、海外展開の余力が消えたのである。戦争は、最大の国力消耗である。習近平氏にとっては、良い教訓になろう。台湾侵攻が、南シナ海不法占拠撤退の引き金になるのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(8月10日付)は、「ロシアの影響力低下の兆し シリア、ロシア軍基地の移管合意」と題する記事を掲載した。
シリアは9日、同国内にある2つのロシア軍基地の管理を引き継ぐことで合意したと明らかにした。ロシア軍のシリア駐留は事実上終了する。
(1)「シリア国営通信SANAによると、「ロシア軍の(シリア国内における)プレゼンスを再編」することで、地中海沿岸のヘメイミーム空軍基地とタルトス海軍基地の輸送施設の管理がシリア文民当局に移るという。今回の合意は、ロシアにとっては戦略的な大きな打撃になる。シリアのシャラア暫定大統領の勢力が2024年末に親ロシアのアサド前政権を崩壊に追い込んだ後も、ロシアは両基地を維持しようとしてきた」
ロシアは事実上、シリアを失うことになった。経済衰退が最大の原因で、ウクライナ侵攻がもたらした結果である。
(2)「ロシアの影響力が弱まる兆しがみえる一方で、米国は数十年に及ぶシリアのテロ支援国家指定の解除に動いている。トランプ米大統領は7月8日、米議会にシリアの指定を解除する意向を伝えた。45日間の審査期間を経て解除される。11年のシリア内戦勃発以降、ロシアはアサド前政権の財政・政治的な重要な後ろ盾となってきた。15年にはアサド前政権を支援するために軍事介入に踏み切った」
米国は、シリアを引き寄せている。後述のように、原油購入先をロシアから米国へ切替えさせる動きをみせている。
(3)「だが、22年のウクライナ侵略開始後、ロシアにとってこの地域の重要性は薄れ始めた。シャラア氏率いる「シャーム解放機構(HTS)」などが前政権を崩壊に追い込んだ際も、ロシアは傍観する姿勢をとった。一方で、アフリカでの軍事展開や地中海でのプレゼンスを維持する拠点として両基地を重視してきた。ロシアのプーチン大統領は、アサド氏の亡命を受け入れたが、内戦で戦った反体制勢力を主導したシャラア氏との関係構築も目指している。プーチン氏はシャラア氏に対し、クルド人勢力主体の民兵組織が実効支配する北東部を奪還する取り組みを支援すると伝えている。さらに戦闘で被害を受けた地域の復興や経済の再建も支援する用意があるとも語った」
プーチン氏のシリア向け発言は、「リップサービス」の域を出ないであろう。経済的に行き詰まっているロシアが、軍事的・経済的な支援余力があるか疑問である。
(4)「シリアは、依然としてエネルギーをロシア産原油に大きく依存している。ロイター通信は4日、(米国との)対シリア制裁解除の協議の一環として、シリア政府がロシア産石油の輸入を削減する姿勢を示したと報じている」
シリア政府が、ロシア産石油の輸入を削減する姿勢を示した。これは、シリアがロシア依存から米国依存へと軸足を移し始めたという意味だ。米国が、シリアのテロ支援国家指定を解除しようとしているのも、中東の勢力図が「ロシア抜き」で再編される前兆である。
ロシアの影響力低下は「3段階目」に入った。これは、ロシア衰退の「兆し」ではなく、衰退の第三段階に当たる。
第1段階は、経済力の衰退である。GDP縮小、技術力低下、エネルギー依存の限界であった。
第2段階は、軍事力の衰退である。ウクライナ戦争で兵力・装備を喪失、海外展開の余力が消滅した。
第3段階は、地政学的資産の喪失である。現状は、まさにこの段階で地中海の基地を失った。中東での影響力が消えると同時に、同盟国が離反し始める(シリアが米国側へ)。これは、ロシアが、大国としての「外部投射能力」の消滅状態を意味する。
ロシアは、こうして「大国の外形」を維持できなくなった。ロシアの大国性は、核、エネルギー、軍事拠点、同盟国で支えられてきた。そのうちの軍事拠点と同盟国が崩れ始めたことを示す。ロシアは、「核だけが大国の証明」という状態に近づいている。これは、国力衰退の末期症状にあたる。

