中国は、生産者物価(卸物価)指数が今年2月まで連続17ヶ月マイナス状態に陥っている。過剰生産が原因だ。2月の卸売物価指数は前年同月比2.7%下落した。マイナス幅は1月の2.5%から拡大した。泥沼状態である。この結果、輸出で大攻勢を掛けている。この被害国は、ブラジルやベトナムなど発展途上国へ広がっている。
『フィナンシャル・タイム』(3月17日付)は、「ブラジル、中国製品にダンピング調査 輸入急増で」と題する記事を掲載した。
ブラジル開発商工省は、中国の工業製品にダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして数件の調査に乗り出している。南米最大のブラジル経済は、安価な輸入品の大量流入を受けて揺らいでいる。同省は業界団体の要請を受け、この6カ月間で少なくとも6件ほどの調査に着手している。対象製品は金属シート、塗装鋼板から化学製品、タイヤに及ぶ。ブラジルが調査に乗り出したのは、中国の輸出品が殺到すると世界が身構えるタイミングだった。
(1)「世界第2の経済大国の中国は不動産不況と内需不振を背景に、過剰生産能力の問題を抱えている。中国は経済テコ入れのため、太陽光エネルギー、電気自動車(EV)、電池などの先進の製造業に投資を行っている。中国の鉄鋼製品の輸出はブラジル向けだけでなく、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア向けもここ数カ月で急増している。先進国市場は、中国からの輸入品に対して広範にわたる対策を取り始めた。欧州連合(EU)は中国製EVへの反補助金調査に着手し、米バイデン政権は最近、中国製自動車に対して安全保障上の懸念を募らせている」
中国は、異常なほどの過剰生産能力を抱えている。地方政府が、補助金を出して生産を奨励してきた結果だ。市場経済であれば、こういう事態まで悪化することはない。
(2)「中国の2024年1〜2月の輸出は前年同期比で7.1%増え、輸入の伸びを大きく上回った。野村のアナリストは15日付の調査報告書で「中国の輸出価格が長期的に下落しているため、中国と一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性がある」と指摘した。中国の税関データによると、同国の対ブラジルの輸出入は1〜2月にいずれも3割以上増えた。
中国は、「巨船」が傾いているだけに、見栄も外聞もない切羽詰まった事態になっている。中国は、一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性を秘めている。
(3)「中国との貿易摩擦は、対中関係の発展とブラジル国内産業の保護・育成を目指す左派のルラ大統領にとってジレンマとなる。23年に大統領に返り咲き通算3期目に入ったルラ氏は就任以降、産業政策を経済戦略の中心に位置づけている。だが、ブラジル政府はおそらく中国政府との対立を避けようとするだろう。中国はブラジル最大の貿易相手国であり、ブラジル産の大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している。ブラジルの23年の対中輸出額は1040億ドル(約15兆5000億円)を超えた一方、中国からの輸入額は530億ドルにとどまる。ブラジルは23年に大豆1億100万トンを輸出したが、対中輸出はその70%、金額にして約390億ドルに上った」
ブラジルは、中国へ大豆や鉄鉱石で23年の対中輸出額が1040億ドルにも達している。中国は、ここをついて輸出を急増させ対ブラジル貿易赤字の帳消しを狙っている。
(4)「ブラジルが最近着手した調査の一つは、同国の鉄鋼大手CSNの要請を受けて今月に入って開始された。CSNは22年7月から23年6月に特定の種類の炭素鋼シートの中国からの輸入が85%近く増えたと主張している。調査は1年半かかる見通しだ。開始に当たり、ブラジル開発商工省は「中国からブラジルへの輸出でダンピング行為があったことを示す要素が十分存在し、この行為により国内産業に損害が生じている」と表明した。ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入鉄鋼製品に9.6〜25%の関税を課すよう政府に求めている。中国からの鉄鋼・鉄製品の輸入総額は14年の16億ドルから23年に27億ドルに伸びている。鉄鋼の輸入急増は、ブラジル政府にとって特に頭の痛い問題だ。ブラジルは鉄鋼の主な原料である鉄鉱石の輸出で世界有数の規模を誇る」
ブラジルは、中国へ鉄鉱石を輸出して大量の中国製鉄鋼製品の輸入を招いている。
(5)「中国産工業製品の流入急増に対して懸念を表明している新興国はブラジルだけではない。タイでは反ダンピング課税をすり抜けていると政府が中国企業を批判し、業界団体は市場に安価な鉄鋼が出回っているせいで多額の損失が出る可能性があると表明した。ベトナム政府は国内業界の苦情を受け、中国から輸入する風力発電タワーや一部の鉄鋼製品についてダンピング調査を始めた。
タイやベトナムも、中国製品の輸入急増に音を上げている。これまでは、中国企業の進出で潤っていたが、それを上回る輸入ラッシュに晒されている。
(6)「23年8月、メキシコは自由貿易協定を結んでいない国からの輸入品数百点に対して5〜25%の関税を課した。これにより中国は特に大きな影響を受けている。メキシコの措置は、米政府関係者からの圧力増大を受けて取られた。米国はメキシコが第三国から輸入する鉄鋼の原産地を明確にする努力が不十分ではないかと指摘している。貿易の専門家によると中国を念頭に置いた言葉だという」
メキシコは、中国へ数百点に対して5〜25%の関税を課している。米国は、メキシコ経由で割安な中国製品の流入を警戒している。
中国の住宅販売に回復への動きは見られない。1~2月は例年、春節(旧正月)の大型連休で住宅展示場は賑わうが、今年は静かなものだったという。中国国家統計局が、18日発表した1〜2月の新築住宅販売面積は、前年同期を24.8%も下回った。2023年まで2年連続で減少した流れが続き、マイナス幅も拡大している。
経営再建中の中国不動産大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の法的整理を申し立てた債権者が18日、開発物件の譲渡などによって債務返済も可能だと提案し、碧桂園側に対話の継続を求めている。有り余る在庫住宅を債権として引き取るという提案だ。少しでも傷を浅くするという債権者側の戦術であろう。
『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「中国新築住宅販売、1~2月24.8%減 地方予算にはや狂い」と題する記事を掲載した。
かつて春節(旧正月)休暇の期間中は住宅展示場を訪れ、物件購入を考える人が多かった。不動産企業によってかき入れ時とされたが、過去の話となった。シンクタンクの中国指数研究院によると、2月中旬の春節休暇の新築取引面積は23年の休暇より3割近く少なかった。
(1)「先行きへの懸念から購入をためらう人が多い。政府は20〜21年に不動産金融への規制を強め、不動産企業の資金繰りが悪化した。「青田売り」物件の工事停止や引き渡しの遅延が相次ぎ、消費者に不安を与えた。これが、今回の不動産バブルの引き金になった。不動産市場の低迷が長引き、地方都市を中心に値下がりが目立つ。「住宅は値上がりする」との神話が崩れ、資産運用として住宅を購入する需要もしぼんだ」
住宅バブル崩壊が、中国経済の財政構造も脆弱化させている。住宅建設の不振が、地方政府の土地売却益の減少となり歳入減に拍車を掛けているからだ。
(2)「中国人民銀行(中央銀行)は2月20日、事実上の政策金利と位置づける最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)のうち住宅ローンの指標金利を下げた。不動産調査の貝殻研究院によると、主要100都市の1軒目のローン金利は平均3.59%と最低を更新したが、需要を刺激する効果は読みにくい。オフィスビルの需要も冷え込む。企業収益の伸び悩みで賃貸などのニーズが減った。新たな供給も増え、空室率が上昇した。不動産コンサルタントの戴徳梁行の調べでは、23年末時点で上海の一級オフィスビルの空室率は21.8%と1年で5.1ポイント高まった。北京や深圳の空室率も上がった。
住宅不況は、商業ビルの空室率を高めている。理由は、不動産バブル崩壊による過剰債務が、ビジネス活動全般を抑制しているからだ。
(3)「マンションなどを建てても売りさばけない不動産企業は、新たな開発を抑制する。1〜2月の不動産開発投資は前年同期より9.0%少なかった。住宅販売と同じように23年まで2年連続で減少した流れが続く。国家統計局の劉愛華報道官は18日の記者会見で「不動産市場は現時点でなお調整・モデルチェンジの段階にある」と語った」
1〜2月の不動産開発投資は前年同期より9.0%少なかった。これは、今後の住宅販売減となって現れる。
(4)「不動産開発の停滞は地方財政を直撃する。中国は土地が国有制で、地方政府が国有地の使用権を不動産会社に売って貴重な財源としてきた。不動産企業が新たな開発を減らせば土地使用権の売買も低迷し、地方政府の歳入が減る。不動産開発投資が減少した22〜23年、使用権の売却収入も落ち込んだ。2年間で売却収入は33%の大幅減となった。売却収入を管理する特別会計の歳入は計2兆8000億元(約58兆円)の予算割れを記録した。不動産不況に対する財政当局の見通しが楽観的だったことは否めない」
22〜23年の2年間で、土地売却収入は33%の大幅減となった。約58兆円の歳入減である。まさに「土地本位制」(学術用語でない)の象徴的事例だ。
(5)「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が承認した24年の政府予算は、特別会計の歳入を前年比0.1%増と見込んだ。不動産開発投資の底打ちに時間がかかるなか、同歳入の8割を占める売却収入も減少し、予算で見込んだほどの歳入を確保できない恐れがある。歳入が下振れすれば、追加の歳出削減が必要になる。公共工事の進捗に響くと、地方経済の停滞感が強まる」
24年の政府予算は、土地売却益を示す特別会計の歳入を前年比0.1%増と見込んでいるが、完全な計算違いとなろう。1〜2月の不動産開発投資が、前年同期より9.0%少なかったことからもわかるように、マイナスは確実だ。
捨てる神あれば拾う神あり。この格言通りのことが起こっている。中国は、福島原発処理水排出に反対して、日本産海産物の全面禁輸措置に出ている。中国は、日本のホタテを輸入して皮剥きし、米国へ輸出してきた。ホタテは、この中国輸出ルートが消えて混乱したが、メキシコで皮剥きを行い米国へ輸出可能なことが分った。しかも、メキシコでは「生」で米国へ輸出するので鮮度が保たれ、価格は中国向けの2倍になるという。
日本産ホタテは、メキシコ経由で米国へ輸出可能となったことで、さらなる販路拡大が可能である。結果論だが、中国の禁輸措置はホタテ業界にラッキーであった。
『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「ホタテ、メキシコ加工で価格2倍 中国禁輸で狙う米市場」と題する記事を掲載した。
中国による禁輸で行き場を失った北海道産のホタテをメキシコで加工し、米国の高級品市場に売り込む試みが本格的に始動した。中国への依存度を減らす一方、価格は中国で加工していた当時の2倍程度に跳ね上がる。高級食材として、まずは米西海岸で独り立ちさせるのが目標だ。
(1)「日本貿易振興機構(JETRO)が、主催した16日までの現地ツアーには8都道県から14社の日本企業が参加し、メキシコ北西部エンセナダ(バハ・カリフォルニア州)の現地3社によるホタテのからむき加工を視察した。JETROが1社に1トンずつ、北海道産の冷凍ホタテを支給し、手法や設備にも助言した。現地企業、アテネア・エン・エル・マルのミネルバ・ペレス社長は、「本格的にやるとなれば人も増やす。3シフトで対応したい」と意欲を見せた。ミル貝やアワビなど月間40トン程度を輸出しているが、日本産ホタテを扱うのは初めて。米国内で流通する可能性のある新たな高級食材としてホタテに注目する」
メキシコは、日本から冷凍のホタテを受入れ、すぐに皮剥きし陸路で米国へ供給する。こういう新たなルートが開けそうだ。日本海産物が、高級食材として米国へ輸出される。中国の全面禁輸が、思わぬ形で日本へ福音をもたらしそうである。
(2)「本産ホタテの輸出金額は、2023年、8万1000トンあまりと前年比4割弱減った。東京電力福島第1原子力発電所からの処理水放出に中国が態度を硬化させ、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った。輸出の8割を占めていた中国向けは5万3700トンあまりと5割減。多くを中国に輸出していた北海道ホタテは大打撃に遭った。北海道産の養殖ホタテは人件費の安い中国に冷凍の状態で輸出され、からをむき、貝柱を再冷凍させて米国に再輸出されてきた。中国ではリン酸塩水を入れた水につけて膨張させる「加水加工」処理が一般的で、見た目を良くして米国に出荷されていた。この加工をすると生食はできず、すしネタとしての可能性は閉ざされていた」
これまでの「中国輸出ルート」は、ホタテにリン酸塩水を入れた水につけ膨張させる「加水加工」処理をしてきた。これでは、生食として不可能である。すしネタには使えないのだ。
(3)「エンセナダは、水産国メキシコでも屈指の規模で加工工場が集積し、米輸出に必要な米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済みの施設も多い。米西海岸、ロサンゼルスの飲食店なら加工後24時間以内に納品可能で、ニューヨークなど他の米大都市向けにも冷凍の物流ルートがすでに確立されているアドバンテージがある。メキシコでは加水加工をせず、「ドライスキャロップ」として米国に運ぶ。「加水加工した『ウェットスキャロップ』に比べ、ドライの価格は2倍程度」(JETROメキシコ事務所の志賀大祐氏)。米国での最終消費者はこれまで低価格の中華料理店が8割以上を占めていたが、メキシコ加工によって高級スーパーやすし店に照準が移る」
メキシコは、米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済み工場が、ホタテの皮剥きをするので衛生面の懸念はない。しかも、加水加工をせずに「ドライスキャロップ」として米国へ輸送する。中国輸出が止まった結果、ホタテは新たな需要地を得られることになったのだ。これまでの日本産ホタテは、米国では中華料理店の食材にすぎなかったが一躍、高級スーパーやすし店の食材へ格上げである。価格が、2倍に跳ね上がるのは当然であろう。皮肉にも、「習近平ありがとう」だ。
(4)「エンセナダは、すし店も多く立地する米ロサンゼルス(カリフォルニア州)まで陸路で5時間程度、からをむいた貝柱を再冷凍せずに届けられるメリットがある。視察した日本企業からも「米国市場で新たなニーズが出てきた時、一番早く対応できる」(ハイブリッドラボ=宮城県=の石橋剛社長)と期待する声が出ていた。16日、ロサンゼルスで開いた食材のバイヤーとの商談会では、24時間前にメキシコで加工された生ホタテが振る舞われた。米国内で魚介類の会社を経営するドン・サブリーさんは「味は申し分ない。日本企業と長い関係を築きたい」と意気込んだ」
メキシコのエンセナダから米国ロサンゼルスまで、陸路で5時間程度である。これは、生ホタテの鮮度維持の上で大きな優位性を持つ。
(5)「築地で仲買人経験もある横田清一さんは、「24時間以内に届けたとは思えない。生食用として十分に合格点」と評価した。JETROによると、カリフォルニア州の日本食レストランの数は約5000店(22年)と全米一の規模で、2010年と比較すると1000点以上増えている。ホタテも、寿司ネタとして人気が上がり、高品質品の引き合いが強い」
カリフォルニア州には、日本食レストランが約5000店もあるという。日本産の食材がますます必要になろう。
中国は、不動産バブル崩壊による衝撃をEV(電気自動車)・電池・太陽光発電の3業種の輸出で乗切る基本方針を立てている。だが、EVの過剰生産につづき、太陽光発電も過剰生産に陥っている。世界最大の太陽電池メーカー隆基緑能科技は、従業員の3分の1を削減するという「大手術」に出る。
『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「太陽電池世界最大手の隆基緑能、従業員の約3分の1削減計画ー関係者」と題する記事を掲載した。
世界最大の太陽電池メーカー、中国の隆基緑能科技はコスト削減を図るため、従業員の約3分の1を削減する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。太陽光産業は過剰生産能力や激しい競争に見舞われている。
(1)「経営陣から説明を受けた人物を含む複数の関係者によると、隆基緑能はピーク時に約8万人いた従業員の最大30%を削減する方針。計画が公になっていないとして匿名を条件に話した。この動きは、隆基緑能が昨年11月に開始した人員削減の加速を示す。今回の決定前にどの程度減らされていたのかは明らかになっていない。隆基緑能の担当者に人員削減についてコメントを求めたが、すぐに返答が得られなか」
太陽光発電パネルは、世界的な過剰生産に陥っている。2022年現在で、世界の平均操業度は2割程度と大赤字状態に陥っている。中国の隆基緑能科技が、世界最大企業といえども耐えられる限界を超えているのだ。過剰生産は、2015年頃から始まっていた。すでに8年もこういう状態であり、ますます悪化している。それにも関わらず、習氏は、太陽光発電パネルを中国の先端産業に位置づけるという見誤りを冒してしまった。
『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「習主席の新スローガン『新質生産力』、技術革新で中国経済の再生狙う」と題する記事を掲載した。
(2)「中国ではスローガンが極めて重要だ。「中国の特色ある社会主義」から「共同富裕」に至るまで、新たなキャッチフレーズの採用は政策の重大な転換を告げることがある。そうした意味では、3月5日に公表された今年の政府活動任務の筆頭に、「新質生産力(新たな質の生産力)」が挙げられた際、習近平国家主席が昨年9月に初めて言及していたこの表現が意味するところを読み解こうとする動きは強まった。2014年以降、産業政策のスローガンがトップとなったのは他に1度しかなく、通常、この枠にはマクロ経済政策に関する方針が充てられてきた」
これは、「質の高い成長」という意味で技術革新を前提にする。EV・電池・太陽光発電パネルが「三種の神器」になっている。
(3)「政府支出の増加や市場の拡大による恩恵を受けるとの思惑から、人型ロボットから航空機部品のメーカーに至るまで、関連銘柄が大きく値上がりした。このスローガンは「中国製造2025」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」など、バリューチェーンの向上を視野にここ数年行われてきた呼びかけの再パッケージに過ぎないとの見方がある。新たな表現は、経済面の課題が山積しているにもかかわらず、これまでの路線を堅持する決意を固めていることを地方の当局者らに強調するのに役立つとの受け止めも目立つ」
習氏は、「新質生産力」が魔法のような力を持っているように振る舞っている。不動産バブル崩壊による過剰債務が、この「新質生産力」によって解消されるような幻想を与えているのだ。これが、現実認識を誤らせる大きな原因である。
(4)「テクノロジーの利用を巡り米国との対立が激しくなる中、中国は技術革新の強化に取り組んでいる。米政府は中国による半導体へのアクセス制限をさらに強化するよう同盟国に迫っており、中国は人工知能(AI)化を進める上で先端半導体の調達は不可欠だ。13日には、李強首相が中国AI大手の百度(バイドゥ)を訪れ、政府による支援強化を示唆した。アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治担当フェローを務めるニール・トーマス氏は、「このフレーズは共産党と政府の官僚機構への新たなかけ声だ」と指摘。「中国経済の成長軌道を巡り先行きがより不透明になる中、生産性を高める技術革新に対する習氏の大きな賭けはますます重要になっている」と述べた」
「新質生産力」の推進には、先端半導体が不可欠である。だが、米国との政治的な対決が「中国包囲網」をつくり出している。原因は、習氏が台湾侵攻方針を捨てない点にある。台湾侵攻方針を捨てれば、習氏の国内権力基盤は弱体化する。一方、これを強調すれば、包囲網を強められるという二律背反に遭遇しているのだ。二進も三進もいかない状況に追込まれている。
世界1位となった台湾半導体企業TSMCは、AI(人工知能)半導体需要の急増に合わせ、台湾で10工場の増設を検討していると伝えられた。その後、「後工程」について日本が技術的に進んでいることから、日本での生産を新たに検討している模様だ。これは、従来の日本における半導体工場建設と別プランみられる。
米インテルも、日本での開発拠点設置を検討しているという。サムスンは、すでに開発拠点設置にむけて動いている。こうして、日本の持つ半導体総合力(製造設備・素材・後工程)に注目して、世界の半導体企業が日本へ集結し始めている。
『ロイター』(3月18日付)は、「日本に先端半導体『後工程』の生産能力、TSMCが検討ー関係者」と題する記事を掲載した。
半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、人工知能(AI)向け半導体の生産に不可欠な先端パッケージング工程を日本に設置する検討をしていることが分かった。AI半導体の需要急増でTSMCは同工程の処理能力が不足しており、製造装置や材料メーカーが集積する日本を候補として考えている。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。検討は初期段階で、規模や時期など詳細は決まっていない。
(1)「同関係者らによると、TSMCは「CoWoS」(チップ・オン・ウェーハ・オン・サブストレート)という同社独自のパッケージング工程を日本に導入することを選択肢の1つに入れている。回路を微細化する前工程の技術による性能向上が限界に近づく中、複数のチップを1パッケージに実装するチップレットや立体的に重ね3次元実装して性能を向上させる先端パッケージング技術の重要性が後工程の中で高まっている。TSMCは2022年、パッケージング工程の研究開発拠点を茨城県つくば市に設立したが、CoWoSの本格的な生産設備は、台湾だけにとどまる」
TSMCは22年、筑波に研究開発拠点を設けた。これには、日本の大学や半導体製造設備メーカーや素材メーカーなどが参加する大掛かりなものだ。TSMCはすでに、日本技術を利用している形である。この延長で、日本においてAI半導体の後工程を生産するのはごく自然な流れであろう。日本企業も、ここで「技」を磨いているので遅れを取ることもない。
(2)「同社は1月の会見で、CoWoSの生産能力を24年に前年比で約2倍にする計画を公表し、25年以降も増強する方針を示した。先端パッケージングは半導体各社が注力しており、別の複数の関係者によると、米インテルも日本での開発拠点の開設を検討している。インテルはコメントを控えた。韓国サムスン電子は、すでに横浜市に先端工程の試作ラインを新設することを決めた」
インテルは、非メモリー半導体でサムスンへ挑戦している。TSMCに次いで世界2位になることを宣言し、米国政府も後押しする。こうなると、インテルはTSMCが日本で展開する戦術を傍観している訳にいかず、日本で研究開発拠点を設けるほかないと判断したのかも知れない。サムスンも横浜で先端工程の試作ラインを新設する。
(3)「各社とも、半導体の素材や製造装置に強みを持つ日本企業と連携し、開発力を強化したい考え。とりわけTSMCは、年内に稼働する熊本県の前工程の工場建設が順調に進んだことから、労働文化が似た日本を有望視していると、前出の関係者2人は言う。
半導体産業の復興へ多額の補助金を投入してきた経済産業省の幹部は、日本で先端パッケージングの生産能力が確保される場合、「支援したい意向がある」と話す。AIの普及により、急速に高まる先端パッケージングの需要に対して「タイムリーに対応していく」とも述べた」
AI半導体は、世界的な供給不足に陥っている。生産の主力は台湾である。日本が、その製造工程の半分を担うとなれば、これまで予想もしていなかった「半導体展開」が始まる。1980年代後半、世界半導体の頂点に立った日本が、再び脚光を浴びる環境が整い始めた。
韓国の政策金利は現在、3.5%である。21年7月までは0.5%であったが、高物価抑制で引上げられてきた。これに最も苦しんでいるのが低所得者である。政府の庶民金融商品「ヘッサルローン15」は、低所得者がヤミ金融に走らぬようにという「救済融資」を目的にしている。その金利が、なんと「15.9%」だ。日本の感覚から言えば、これこそ「ヤミ金融」並みである。
韓国の資本蓄積が、いかに低レベルであるかを証明する話である。少しでも政策金利を引上げると低所得者へは低い信用度で高金利となって跳ね返るのだ。日本は、政策的意図で事実上1999年からゼロ金利である。この日韓の差は、資本蓄積の厚みの差を示すものだ。
『ハンギョレ新聞』(3月17日付)は、「韓国『物価高・高金利ショック』庶民向け融資の延滞率が一斉急騰」と題する記事を掲載した。
韓国で高金利・高物価が持続しているため低信用庶民層家計の借金負担が加重されていることが分かった。政府が庶民の高金利負担を減らすために供給する各種の庶民金融商品の延滞率が昨年急騰したことが明らかになった。
(1)「17日、国会政務委員会所属の改革新党ヤン・ジョンスク議員室が金融監督院と庶民金融振興院から受け取った資料によれば、信用等級が低い庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」の昨年の代位弁済率が21.3%となり、2022年(15.5%)より5.8ポイント急騰したことが分かった。代位弁済とは、融資を受けた借主が元金を返済できなかった時、庶民金融振興院などの政策機関が銀行に対し代わりに弁済することを意味する。ヘッサルローン15の代位弁済率が20%台に跳ね上がったのは昨年が初めてだ」
庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」は、年利15.9%である。これだけの高金利は、日本でも払えぬ高利である。代位弁済が急増しているのは当然であろう。政府が、代わって金融機関へ支払っているのだ。
(2)「特に、ヘッサルローン15は闇金融に頼らざるを得ない低信用者が正常な経済生活を継続できるように、相対的に高い年15.9%の金利で政策資金を融資する庶民金融商品だ。この商品の延滞率が高くなっていることは、低信用庶民層の償還能力が限界状況に達し、再び私債市場などに追い込まれる可能性が高くなっているという意味だ」
低所得者で「ヘッサルローン」を延滞する状態では、後はヤミ金融へ行く以外の道はなくなる。悲劇が、待っているような事態だ。
(3)「ヘッサルローン15のみならず、他の庶民金融商品も一斉に延滞率が上昇したことが分かった。満34歳以下の青年層を対象にした「ヘッサルローンユース」の代位弁済率は2022年(4.8%)の2倍水準である9.4%に急騰し、低信用勤労所得者のための「勤労者ヘッサルローン」の代位弁済率も2022年の10.4%から昨年は12.1%に上がった。低所得・低信用者の中で償還能力が相対的に良好で第1金融圏に移れるよう支援する「ヘッサルローンバンク」の代位弁済率は8.4%で前年(1.1%)より7.3ポイント急騰した」
韓国経済の根本的問題は、金融構造が脆弱であることだ。ウォン安が頻繁に起こっており、そのたびに「日本との通貨スワップ」が叫ばれてきた。この問題は現在、日韓の友好ムードで「日韓通貨スワップ協定」が結ばれて解決した。だが、庶民は不況のたびごとに大揺れである。
(4)「この他にも医療費・食事代など、それこそ急にお金が必要な脆弱階層に最大100万ウォン(約11万円)を当日貸すマイクロクレジット商品「小額生計費貸出」の昨年の延滞率は11.7%だった。信用評点下位10%の最低信用者のための最低信用者特例保証の代位弁済率も14.5%となった」
マイクロクレジットは、当日貸しだけに高金利を取るのであろう。ここでも、延滞率は11.7%にも及んでいる。
(5)「年齢帯に分けてみると、20代以下の青年層の代位弁済率が最も高いことが分かった。まだ資産形成ができていない青年層の償還能力が最も脆弱なわけだ。2018年以後6年間、これら庶民金融商品の支援を受けた人は計287万人で、貸出総額は19兆9000億ウォン(約2.2兆円)と集計された。このうち約10%に該当する1兆9922億ウォンが延滞され、昨年末基準で未回収金は1兆8058億ウォン(約2000億円)に達した。ヤン・ジョンスク議員は「高金利・高物価が持続し、家計負債負担に押しつぶされた庶民層の苦痛が政策金融商品の延滞率増加に現れている」とし「庶民用政策金融商品の金利適用に勤労所得増加率を連動させるなど金利設計方式を全面再検討しなければならない」と話した」
20代以下の青年層は、代位弁済率が最も高いという。住宅ローンを目一杯借りて、返済余力がなくなっている結果であろう。オール借金漬けの韓国の若者は、未来に夢を失い結婚や出産から遠ざかっている。この矛盾を解決するにはどうすべきか。過去においても、矛盾を抱えながら解決せず先送りしてきたのだ。
大企業製造業は8割満額
国内はM&A時代へ突入
GDP3位転落巻返しへ
日本経済取巻く環境好転
24年春闘は、日本経済の将来を占う試金石となった。これまで、賃金をコストとしてみてきた企業が、180度の転換で「人材投資」という認識に変わったことだ。賃金が、コストであれば切下げるほど企業の利益になる。今や、本格的な労働力不足に直面して、賃金は人材投資であることに気づかされたのである。優秀な人材を集めて能力を発揮させるには、よりよい待遇が前提条件になった。賃金は、将来を見据えた投資なのだ。
24年春闘は、3月15日現在の連合による第一次集計で、平均賃上げ率が5.28%となった。前年同時点を1.48ポイントも上回った。昨年に引き続く2年連続の高い賃上げ率は、一過性でないことを示している。日本企業が、賃金コスト論を脱却して人材投資という視点に転換したことを意味している。その意味では、日本企業の「経営革命」と呼んで差し支えなかろう。
連合は、従業員数300人以下の中小企業の賃上げ率も発表した。それによると、4.42%に達し、32年ぶりの高水準となった。前年同時期を0.97ポイント上回ったのだ。賃金引き上げ機運は、こうして中小企業にも広がっており、物価と賃金が持続的に上がる好循環の基盤が形成されてきたとみてよかろう。
24年春闘は成功した。問題は、零細企業の賃上げがどこまで可能か、である。下請け企業の場合、発注先の企業が人件費上昇分を受入れるかがポイントになる。政府は、「下請法」によって正当な人件費上昇を受入れるように公正取引委員会が監視している。先頃、下請法違反の企業10社の社名が公表された。「一罰百戒」の意味を込めた発表だが、こうした違反は絶対に防がなければならない。
年央の実質賃金は、プラスに転じる可能性が強まっている。長かった「冬の季節」が終わりを迎えるであろう。
大企業製造業は8割満額回答
大企業製造業は、24年春闘で8割が労組要求に対して満額以上の回答をした。中でも圧巻は、日本製鉄である。月3万円の賃金改善要求を上回る、月3万5000円と回答した。この結果、定期昇給(定昇)などを含めた賃上げ率は14.2%である。回答の狙いについて、日鉄は「今後の生産性向上を前提とした、将来に向けた人への投資」と説明している。
鉄鋼業界は、これまで他社と「横並び」の賃上げを行ってきた。だが、日鉄はこの慣例を破って14%もの大幅賃上げへ踏み切った。狙いは何か。一つは、同業間での競争である。従来は、同業間では暗黙の了解で横並びの賃上げであった。これでは、日鉄に優秀な人材を集められないという危機感であろう。もう一つは、他産業との競争である。その一つが日本の半導体勃興である。台湾半導体企業TSMCの熊本進出が導火線になった。
TSMCは、大卒で28万円の初任給を出す。日鉄は、TSMCへ流れる人材も取り込みたいのであろう。それには、これに対抗する初任給引上げが必要である。日鉄の24年初任給は、賃上げで26万5000円だ。前年よりも18.3%増になる。初任給が、2割近い引上げは高度成長期並みである。日鉄は、今後とも賃上げできる企業体質強化への青写真を持っているはずだ。
日鉄は、米国のUSスチールとの合併を進めていたが、米国バイデン大統領の反対声明で実現に時間がかかりそうな情勢になった。だが、日鉄は海外でのM&A(合併・買収)を積極的に行う意思を示したことで、他産業にも大きな刺激を与えたはずだ。実は、M&A候補が海外だけでなく、日本国内に多数存在している。
国内はM&A時代へ突入
日本政府は、長年の懸案だった国内企業の統合について、一気に進められる明確なゴーサインを出している。経済産業省が昨年8月、05年以来となる企業買収の行動指針を策定したからだ。今年2月、日本で開催されたM&A関連会議では、世界各地のファンドマネジャーが大挙して押しかける盛況ぶりであった。日本が、M&A市場として有望とみられているのである。
経産省の新たな行動指針では、敵対的買収防衛策が緩和されている。経営陣は、合理的理由がなく買収提案を拒んだり、敵対的として退けたりできなくなったのだ。これまで、高い壁があった敵対的買収に対する防御策が消えたと言えよう。最も大きな効果は、M&Aによって日本経済全体の効率性(生産性向上)が高まることである。非効率な経営を続け、従業員へ満足な賃上げもできない企業は、M&Aによって経営主体が変わる時代になった。M&Aは、こうした重要な役割を果たすのだ。
日本企業はこれまで行き過ぎた経営多角化を行ってきた。ビジネスチャンスを求めた結果である。これが、効率的経営実現の障害になっている。そこで、国内企業同士の事業統合を進める有効手段として、M&Aがテコとして浮上してきた。(つづく)
この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。
https://www.mag2.com/m/0001684526
中国は、国内経済不振を打開すべく、EV(電気自動車)・電池・太陽光発電パネルの3点を重点輸出品目として売り込む姿勢を鮮明にしている。中国は、国内の過剰生産を輸出で切り抜けようという戦略である。米国は強い警戒姿勢をみせている。
『レコードチャイナ』(3月17日付)は、「駐中国米国大使『中国が不当廉売で過剰生産能力を輸出すれば世界の貿易体系にダメージ』」と題する記事を掲載した。
(1)「シンガポール華字メディア『聯合早報』によると、米国のニコラス・バーンズ駐中国大使は15日、米シンクタンク、イースト・ウエスト・センターが開催したオンラインセミナーで、「中国がダンピング(不当廉売)という形で過剰生産能力を輸出すれば、世界の貿易体系にダメージを与えることになり、他の国々もそれに反応するだろう」と語り、製造業の奮い起こしに力を入れる中国の取り組みに懸念を示した」
EU(欧州連合)は、中国がEV(電気自動車)のダンピング輸出を行っているという疑惑を強めている。すでに関連調査を進めており、間もなく結論を出す予定だ。現在の様子では、「ダンピング濃厚」で、EUはすでに取締りの準備に入っている。米国も、中国EVがメキシコへ工場進出して、「無関税」での輸出を狙っていると関心が集まっている。
(2)「中国政府は今年の政府活動報告で、政府活動任務における最初の項目として「現代化産業体系の建設を大いに推進し、新たな質の生産力発展を加速させる」ことを挙げ、現代製造業の発展に全力を尽くすというシグナルを発した。バーンズ氏は「終わったばかりの全人代と全国政協会議の年次総会から判断すると、中国は、経済の減速に対処し、より一層の成長を達成し、より多くの雇用機会を創出するため、製造能力を大幅に引き上げる方針だ」とし、「もしそうなれば、生産能力が過剰になり、太陽電池パネルや電気自動車などの製品が増えることになる。中国がこれらの製品を人為的な低価格やさらに進んでダンピングという形で世界の他の国に輸出すれば、世界的な貿易システムの破壊につながる」と懸念を示した」
駐中国の米国大使は、中国が国内景気テコ入れ目的で世界中へダンピングによってEVや太陽光発電パネルの輸出を行えば、世界貿易システムを破壊すると警告している。バイデン大統領は、この問題について表だった発言をしていないが、中国EVのメキシコへ進出には、政府高官が警戒観を滲ませている。一方、次期米大統領への返り咲きを目指すトランプ氏は、過激な発言をして牽制している。
『ブルームバーグ』(3月17日付)は、「トランプ氏、100%関税の意向ー中国企業がメキシコで製造の自動車」と題する記事を掲載した。
トランプ前大統領は3月16日、11月の米大統領選でホワイトハウス返り咲きを果たした場合、中国メーカーがメキシコで製造した自動車に100%の関税を課す意向を示した。トランプ氏が先に表明していた関税率の倍となる。
(3)「トランプ氏はオハイオ州デイトンの選挙集会で演説し、中国の習近平国家主席に直接言及。その上で、中国自動車メーカーがメキシコに大規模な工場を建設し、米国の労働者を雇用せずに対米輸出することを考えているのなら、そうはさせないとの考えを示した。「国境を越えて来る全ての自動車に100%の関税を課す」と語った」
中国が、メキシコへの工場進出を狙っているのは、米国・カナダ・メキシコ3ヶ国の貿易協定で無税になっていることを利用するものだ。この件で、中国BYDはメキシコへEV工場を作っても米国へ輸出しないと発言している。中国にとっても、「もしトラ」(トランプ氏当選)の場合、大変な損害になるので慎重になろう。
(4)「トランプ氏は今月早い時点で、中国企業がメキシコで製造する自動車への50%の関税賦課も辞さない考えを表明していた。同氏はこれまでに、中国からの全ての輸入品に最大60%の関税を課す考えなどを示すとともに、(中国の)対抗措置を懸念していないと話している」
トランプ氏は、中国EVへ100%関税率を科すとしている。十分に根拠があるわけでないが、米国自動車労働者向けの発言であることは間違いない。大統領選を有利に運ぶレトリックである。
中国では、住宅神話に踊らされて新居を購入したものの、その後の失職でローンが支払えない人たちが増えている。競売物件が増えているのだ。住宅相場の下落が顕著な結果、競売は成立せず不調に終わっている。こうした不運な人たちの増加は、住宅販売や個人消費へ悪影響を与えている。
『ロイター』(3月17日付)は、「増える中国の住宅ローン延滞、不動産・消費に一段の下方圧力」と題する記事を掲載した。
中国南部の恵州市で金融関係の仕事を失ったレイ・ジャオユさん(38)は今、住宅ローンの返済が滞っており、取立人に追い回される境遇にある。避けられない破局を少しでも先延ばししようと、電話には一切出ないようにしている。
(1)「2022年末に失業し、130万元(約2730万円)で買った住宅のローンとクレジットカードの借金の返済ができなくなったレイさんは、「私にとって唯一の家で、差し押さえされたくない。でも、何ができるのか」と途方に暮れる。7年前に家を購入したことを悔やみながら「私は自分の若さを無駄にしたような気がする」とつぶやいた。レイさんのような状況に陥った人は、中国ではまだ少ない。だが、その数は急速に増え続けている」
中国では、住宅への執着が極めて強い。住宅神話が生まれた背景でもある。こうした状況下で失業に陥ると住宅ローンの重圧が一挙にかかってくる。
(2)「背景には、不動産危機や地方政府の債務増大、デフレ懸念などに伴って経済全体が依然として部分的な回復にとどまり、足場がもろいことがある。複数の専門家は、住宅ローン延滞件数の増加は不動産価格と消費者信頼感の双方にとって悪影響を及ぼしかねず、家計需要を促進して経済基盤をより強化しようという政府の努力に一層の冷や水を浴びせる恐れが出ている」
住宅ローン延滞件数の増加は、これから住宅販売や個人消費へとジワリと悪影響を及ぼす。
(3)「中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の分析では、23年に差し押さえられた物件数は前年比43%増の38万9000件。今年1月はさらに5万件以上が差し押さえとなり、前年比増加率は64.4%に達した。華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、延滞と差し押さえ増加は消費を萎縮させているだけでなく、過剰な不動産投資は避けるべきという警鐘にもなっていると述べた。
レイさんも到底、消費などできる気分ではない」
23年の差し押さえ物件は38万9000戸だが、今年1月だけで5万件以上になった。年率換算で60万戸にもある。前年比で5割増という事態である。
(4)「(前記のレイさんは)昨年、ライブ配信経由でさまざまな所有品を売って稼いだ合計額は約4万元。毎月の住宅ローン返済額の4200元に充てるには不十分で、毎日の基本的な生活費すらおぼつかない。「私が着ているのは全て5年前の服だが、体重が増えたので、その多くはもう合わなくなってきている。友人からはお古のコートをもらった。旅行は17年以降、一度も行っていない」という。レイさんにとって最も心苦しいのは、毎月3000元の年金で暮らす母親を支えてあげられないことだ」
住宅高騰が、庶民生活を破綻に追いやった事例がここにある。
(5)「中国指数研究院のデータからは、23年に9万9000件の差し押さえ物件が競売に付され、売却総額が1500億元(約3兆1500億円)だったことが分かる。北京の差し押さえ専門会社幹部のデュアン・チェンロン氏は、これらの競売は2~3年前に発生した債務問題の結末なので、競売物件の増加ペースは今後、加速する公算が大きいとの見方を示した。デュアン氏は「新型コロナウイルスのパンデミック後の経済環境は良好でなく、失業などが原因で住宅ローンでは多くのデフォルト(債務不履行)が起きている。まだ、競売物件と返済がままならなくなっている資産の規模にはギャップがある」と指摘。将来的に競売が増えれば、通常の市場での買い手候補の目がそちらに向くことで、新築住宅や中古住宅の価格が圧迫されてもおかしくないと付け加えた」
23年の差押物件の売却総額は、約3兆1500億円にも及んだ。これら競売は、2~3年前に発生した債務問題の結末である。今後、競売物件の増加ペースは加速するとみられる。
(6)「中国の幾つかの都市では、差し押さえ物件の競売が何度も不調に終わるケースも見られる。河南省の駐馬店市出身のシングルマザー、シンさん(30)は、起業のため自宅マンションを担保に借金をしたものの、20年のロックダウンであっという間に廃業を強いられ、家を失った。19年当時で31万元と評価された物件は過去1年間で2回、シンさんが銀行から借りている17万元で競売が行われたが、買い手は現れなかった」。シンさんは「誰が買うのか。同じマンションでほかに10戸以上も競売に出されているのに」とため息をついた」
住宅相場の急落で、競売物件の売却が成立せず不調に終わっている。いずれは、売却価格の引き下げとなろう。これが、新規住宅販売の足を引っ張ることになろう。
米国は、日鉄とUSスチールを巡る合併反対論で政治的圧力をかけている。だが、USスチールは15日、日鉄による買収が今年後半に完了する見込みと規制当局に提出した資料で明らかにした。『ロイター』(3月16日付)が明らかにした。日鉄は15日、合併を実現するという強い決意を表明した。
『ブルームバーグ』(3月15日付)は、「日鉄、『強い決意』でUSスチール買収完了させると声明で主張」と題する記事を掲載した。
日本製鉄は15日、米USスチールの買収に関して「強い決意のもと」で完了させるとの声明を発表した。バイデン米大統領はUSスチールについて、米国資本の企業として存続するよう求めている中でも、退かない姿勢を示した。
(1)「日鉄は声明で、買収はUSスチールだけでなく労働組合や米国鉄鋼業界、米国の安全保障に明確な利益をもたらすと指摘。投資の拡大と先進技術の提供を通じて競争力がある製品やサービスを生み出し、米国の優位性を高めるとした。これらを独力で実現できる他の米企業はなく、USスチールが今後何世代にもわたり米国の象徴的企業としてあり続けるための最適なパートナーだと確信していると述べた」
USスチールは、米国独禁法上で国内有力鉄鋼企業との合併が不可となっている。USスチールを救済できるのは、独禁法上でも日鉄しか存在しないことが明らかだ。
(2)「日鉄はまた、全米鉄鋼労働組合(USW)に対し、雇用、年金、設備投資、技術共有、財務報告や買収成立後のUSWとの労働協約に関する義務履行の確保に関する重要な約束事項を提案し、相互に合意可能な解決に向けた努力を継続するとも述べた。日鉄によるUSスチール買収を巡っては、バイデン大統領が先に「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社だった。米国の鉄鋼会社として国内で保有され、経営を続けていくことが極めて重要だ」と声明で主張。「米国の鉄鋼労働者を原動力とする強力な米国の鉄鋼会社を維持することが重要だ。米鉄鋼労働者には私がついていると伝えた。それが私の本心だ」と述べた」
USWは、合併反対派の強い影響を受けているとされる。独禁法上の限界を理解せず、政治的に振る舞っているだけだ。
(3)「バイデン大統領の今回の声明では、買収計画に対する連邦当局による現在進行中の精査については言及しておらず、計画を阻止する方針だとも明言していない。この買収計画の実現には株主の承認が必要だが、市場が注目しているのは対米外国投資委員会(CFIUS)による審査だ。CFIUSには、買収計画を承認するか、国家安全保障上の懸念を理由に阻止する、ないし修正を求める権限を持つ。またバイデン大統領に判断を委ねる可能性もある。バイデン大統領の声明が、この審査に何らかの影響を及ぼすのかは明らかではない」
CFIUSは、財務省の管轄下にある。財務省は一切、この問題に言及せず沈黙している。中立を守っているようだ。CFIUSは、政治的思惑を排除して純粋に手続き論で審査している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月15日付)は、「日本製鉄を巡るバイデン氏の大失態」と題する社説を掲載した。
かつて米政界の一致した見方は、外国からの投資は米経済の強さの表れであり、高給の雇用を生み出すというものだった。保護主義者たちは、米国製品と競合する輸入品の流入阻止に焦点を合わせていた。しかし、彼らは今では、友好国が米製造業に投資する場合さえも標的にしている。
(4)「それは、日本製鉄がUSスチールに提示した141億ドル(約2兆円)での友好的買収案にも当てはまる。USスチールは老舗の米国企業だが、世界の製鉄会社ランキングで大きく順位を落としてしまっている。日本製鉄の幹部は、USスチールの生産性を高めるために大規模な資本注入を計画している。しかし、この買収案に対してライバルである米クリーブランド・クリフスや全米鉄鋼労組(USW)から反対の声が上がっており、政治家は羊のように従っている」
大統領選を前に、合併に伴う経済的利益よりも政治的思惑で反対論が横行している。
(5)「それに新たに加わったのが、バイデン大統領だ。同大統領は14日、日本製鉄への売却に反対する意向を示す声明を出し、「USスチールは1世紀以上にわたって米国の象徴となってきた鉄鋼メーカーであり、国内資本に所有され、国内で操業する米国の鉄鋼メーカーであり続けることが必要不可欠だ」と述べた」
バイデン大統領は、大統領選を有利に運ぶために「反対」とは明確にせず、労組側を引きつける戦術を取っている。
(6)「世界には鉄鋼があふれているため、なぜそれが米国製でなければならないのかは明確でない。しかし、米国で製造されるとしても、そのメーカーが「国内資本に所有」されることが「必要不可欠」な理由は何なのだろうか。日本製鉄は世界4位の鉄鋼メーカーであり、同社の工場はUSスチールの老朽化した工場よりはるかに効率的だ。日本製鉄の専門技術と資本は、USスチールの事業の競争力を向上させることで、米国の経済力の向上につながるだろう。しかし、日本製鉄の買収提案に対する政治的反対は、経済的利益に関連したものではない。それは、クリーブランド・クリフス、USW、そして11月の大統領選でのブルーカラー労働者票の獲得に絡んだものだ」
合併反対論者は、独禁法上の制約を全く理解せずに騒いでいる。USスチールは、米国の有力な同業と合併できないのだ。